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『ザ・タウン』「街」がもたらすリアリティを吹き込んだ、ベン・アフレックの監督術

『ザ・タウン』「街」がもたらすリアリティを吹き込んだ、ベン・アフレックの監督術

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周囲のアドバイスに耳を傾け、総力を結集する



 ベンは映画の現場で、決して虚勢をはることなく、自分の限界や無知なる領域について正直に向き合った。本作で挑んだハードなアクションシーンに関しても「これほどのアクション作に出演したことはあったが、監督したことは一度もない。そんな未経験な自分が怖かったし、とてつもないプレッシャーだった」と語っている。だが、幸いなことに周りを固めるのはベン以上に映画について詳しいプロたちだ。そのため、ためらうことなく彼らへアドバイスを求めて、最善となる方向性を模索した。常日頃から皆と言葉を交わし、親交を温め、ビジョンを正確に伝えることを忘れなかった。その結果、誰もが「ベンのためなら」と総力を結集する態勢が出来上がっていったのである。


 もちろん、当のベンは現場の誰よりも精力的に動き回った。カメラの前に立つ時は主演俳優としてストーリーに没入し、監督する時にはクールダウンして状況を外側から客観的に見つめる。時には撮影時に着用したドクロのマスクを着用したまま監督を続けたこともあったとか。そういった境界線を頻繁に行き来しながら、ベン・アフレックは二つの役回りを両立させ、見事な成果を上げていったのである。




ドキュメンタリーにも似たリアルをもたらした地元の力



 そして、『 ゴーン・ベイビー・ゴーン』に引き続き、今回もまたベン・アフレックの持ち味として最も印象深く炸裂しているのが、地元民のエキストラ出演だろう。それも一人や二人ではない。無数に、あらゆるシーンに存在するのである。


 そこには嘘偽りのない現地の建物や景色が広がり、なおかつ、そこに息づく人々もまた、地元ならではのリアリティに満ちている。地元に実在する「依存症の人々が集まる集会」にカメラを向け、人々の心の叫びに寄り添ったシーンもある。他にも、不意に道を通りかかる人から、バーで居合わせる常連客に至るまで、地元の人々でいっぱい。さらには警官役などに地元の人を「セリフのある役」としてキャスティングすることで、職業俳優が演じる以上のリアリティを加味することに成功している。


 地元民を配置することによって、彼らの言葉や服装、暮らしぶりなどからその人物がどこのエリアのどの階層に属するのかを判別することも可能だ。こうして何気ないシーンから人々の関係性が立体的に浮かび上がり、街自体もまた、血の通った一人の登場人物として有機的に立ち上がっていく。これもまた、ベン・アフレックにしか成しえない大胆不敵な監督術といえよう。


 もちろん、『ザ・タウン』は撮影によって地元経済を活性化させもしただろう。だが、それ以上に、ベンは彼らにある種の「参加者意識」を芽生えさせたかったのではないか。そうすることで本作は、「俺たちが関わった映画」、「私たちの“タウン”の映画」として達成感を伴って共有され、輝きを増していく。故郷の人々が誇らしそうに自分の出演シーンを指差したり、撮影時のエピソードを語り継いでいくのを見ながら、ベンはきっと自分がこの映画を手掛けた真の意義を噛み締めていたはずだ。この映画が地元民にとってのある種のプライド、そして街の神話となったであろうことは想像に難くない。


 『ゴーン・ベイビー・ゴーン』と『ザ・タウン』でこの方法論を確立させたベン・アフレックは、次作『アルゴ』でもなおリアルなドキュメンタリー・タッチを追究し、さらに上の次元へと進化を遂げていくことになるのである。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『ザ・タウン』

<エクステンデッド・バージョン>ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

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