1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. マルコヴィッチの穴
  4. 『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作
『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作

(c)Photofest / Getty Images

『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作

PAGES


「穴」に入ればマルコヴィッチになれる



 物語の主人公は、どうやら才能はあるらしいものの、なかなか芽が出ない人形師・クレイグ(ジョン・キューザック)。芽が出ないだけならいいが、卑猥な人形劇を街角で上演して殴られる始末だ。仕事がなく、苦しい生活をしているクレイグは、動物を愛する妻・ロティ(キャメロン・ディアス)のためにも就職を決める。職場はビルの7と1/2階にあるので、エレベーターを緊急停止させ、バールで壁をこじあけて出勤しなければならない(ちなみに、最初にエレベーターを止めてくれる女性を演じているのは若きオクタヴィア・スペンサーである)。


 仕事を始めたクレイグは、妻のある身でありながら、同じく7と1/2階で働く女性・マキシン(キャサリン・キーナー)に惚れ込むも、マキシンはクレイグに関心を示さない。そんなある日、クレイグはオフィスで隠し扉を発見する。その向こうには、深い「穴」が広がっていた。恐る恐る、「穴」の奥へと続く細長い道を進んでゆくと、なぜかクレイグは、突如として俳優ジョン・マルコヴィッチになっていた。その「穴」に入ると、15分だけジョン・マルコヴィッチの頭の中に入ることができ、時間が来れば高速道路の脇に放り出されるのである。



『マルコヴィッチの穴』(C)PolyGram Holdings,Inc. All Rights reserved.


 驚愕したクレイグがマキシンに相談すると、マキシンは「穴」をビジネスに使用することを提案する。たちまちクレイグとマキシンの仕事は軌道に乗り、夜な夜な7と1/2階には穴に入りたい人々が行列を作るようになった。そんな中、マキシンはマルコヴィッチ本人に接近し、肉体関係を結ぶ。かたや、クレイグの勧めで「穴」に入った妻のロティは、マルコヴィッチとしてマキシンと交わり、そのことをきっかけに、クレイグではなくマキシンを愛する自分自身に気づくのだった。ところがクレイグはマキシンへの思いを抑えきれず、マルコヴィッチという器を通してロティとの三角関係に発展。むろん、二人の夫婦関係はみるみるうちに破綻していく。


 やがてクレイグは、マルコヴィッチに入ることを繰り返すうち、人形師としての才能を発揮してマルコヴィッチを自在に操れるようになる。あくまでも人形師としての成功を望むクレイグは、マルコヴィッチに俳優を廃業させ、ついには人形師に転身させてしまうのだった。


 ここまでが物語の後半までのあらすじだが、これは最低限の展開が伝わるように、ストーリーの説明をかなり簡略化したものにすぎない。『マルコヴィッチの穴』ではさらに複雑かつ不条理な出来事が連続するわけだが、とはいえ、これだけの情報でも本作にあらゆるテーマが重層的に織り込まれていることがわかるだろう。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. マルコヴィッチの穴
  4. 『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作