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『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作

(c)Photofest / Getty Images

『マルコヴィッチの穴』アイデンティティとテクノロジーの〈現在〉を予見した怪作

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 もしも、自分ではない別の誰かになれたなら。もしも、もっと良い自分になれたなら。人間の欲望はとどまることを知らず、予想さえしなかった形で不意に噴き出してくることがある。


 スパイク・ジョーンズとチャーリー・カウフマン、いまや映画界に燦然と輝く鬼才クリエイターが初めてタッグを組んだ作品が『マルコヴィッチの穴』(99)だ。「とあるオフィスにある“穴”を通じて、誰でもジョン・マルコヴィッチの頭の中に15分だけ入ることができる」。あまりにも突飛な設定ながら、現代を生きる誰しもに通じる普遍性を獲得した一作である。


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二人の鬼才が出会い、「扉」が開いた



 2020年にはNetflix映画『もう終わりにしよう。』が話題を呼んだ、映画監督&脚本家のチャーリー・カウフマン。ジム・キャリー&ケイト・ウィンスレット主演『エターナル・サンシャイン』(04)の脚本や、『脳内ニューヨーク』(08)の脚本・監督でも知られる彼こそ、『マルコヴィッチの穴』の物語を考え出した張本人である。



 1990年代前半、カウフマンはシットコムの脚本を書く仕事に就きながらも、仕事がうまくいかずにストレスを抱えていたという。それでも生活のためにシットコムの仕事を待ちながら、彼は映画進出をもくろんで本作の脚本を執筆したのだ。

 

 しかしながら『マルコヴィッチの穴』の脚本は、業界でにわかに話題を呼び、スタジオや制作会社の幹部の手に何度も渡りながら、その特殊な設定ゆえだろうか、なかなか映画化に至らなかった。ジョン・マルコヴィッチ本人も脚本を読み、その完成度に感心したが、当時、マルコヴィッチ側は「自分を題材にしないことを条件に監督やプロデューサーを引き受ける」と提案し、逆にカウフマンに断られている。もはやカウフマンも実現を諦めつつあったころ、脚本は巨匠フランシス・フォード・コッポラの手に渡り、監督の候補者として、コッポラの娘であるソフィア・コッポラと交際していたスパイク・ジョーンズの名前が挙げられた。


 ビョークやビースティ・ボーイズ、ウィーザーなどのミュージックビデオを手がけていたジョーンズにとって、この『マルコヴィッチの穴』は長編映画デビュー作。本作ののち、『アダプテーション』(02)でもカウフマンとタッグを組み、『かいじゅうたちのいるところ』(09)『her/世界でひとつの彼女』(13)を発表し、熱狂的ファンを獲得したジョーンズは、そのフィルモグラフィからも分かるように業界でも珍しいほど寡作の映画監督だ。しかし、当時からその才能は周囲の人間を惹きつけており、本作のために面会したマルコヴィッチも「とても愉快で知的、チャーミングな男だった」との印象を語っている。


 お蔵入りの可能性さえあった『マルコヴィッチの穴』は、カウフマンの手から出発し、ジョーンズというパートナーを得て、プロデューサーと制作会社が加わり、ついに映画化へと至った。製作費は推定1,000万~1,300万ドル、撮影は1998年の夏に実施された。映画史上に残るほどのカルト映画の扉はこうして開き、映画人としてのスパイク・ジョーンズ&チャーリー・カウフマンのキャリアもここから始まったのである。




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