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『エネミー・オブ・アメリカ』コッポラの名作『カンバセーション…盗聴…』との比較で見えてくるもの

(c)Photofest / Getty Images

『エネミー・オブ・アメリカ』コッポラの名作『カンバセーション…盗聴…』との比較で見えてくるもの

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チームプレイでの盗聴作戦と巨大な倉庫



 まずもって『エネミー・オブ・アメリカ』のジーン・ハックマンはなかなか姿を現さない。それこそ前半部は、ヒッチコック監督作『北北西に進路を取れ』(59)さながらに”追われるウィル・スミス”が描かれるのみ。


 だが、およそ50分を過ぎたあたりで決定的な場面が登場する。公衆の面前なら命を狙われる心配もなかろうと、あえて人で賑わう公園で密会を果たす主人公と、ワケありの女性。周辺には、二人の会話を盗聴しようとマイクを構える捜査員たち。その図式は『カンバセーション…盗聴…』のオープニングシーンと本当によく似ている。


 ハックマン演じる”ブリル”の名が(盗聴によって)初めて敵側の知るところとなるのも、まさにこのくだり。ストーリーが転調し後半戦に突入したのを印象づける極めて印象的な場面なのである。


 中盤になって登場するブリルの仕事場は、『カンバセーション…盗聴…』の盗聴屋ハリー・コールの職場とよく似ている。それは工業地帯にある倉庫風の建物で、内部には蜘蛛の巣のごとくフェンスが張り巡らされている。


 『カンバセーション…盗聴…』DVDのコメンタリーを紐解くと、コッポラいわく「ハリーの仕事場はまるで要塞のようだ。フェンスでいくつものエリアに区切られ、殻の中にさらなる殻を作り、閉じこもっている」とのこと。この言葉は『エネミー・オブ・アメリカ』のブリルにも、寸分違わずピッタリ当てはまりそうである。



 『エネミー・オブ・アメリカ』(c)Photofest / Getty Images


 さらに、敵の捜査員たちがブリルの秘密基地への襲撃を開始する時、その中の一人が”透明のコート”を着用していることに気づかされる。ビニル製の透明コートといえば、『カンバセーション…盗聴…』のハリー・コールが常に身につけていたアイテムだ。コッポラはこの名作の至るところに”のぞき見る”、あるいは”透けて見える”ことを象徴する様々なアイテムを忍ばせていた。となると『エネミー・オブ・アメリカ』でにわかに映り込むこのコートもまた、分かる人にだけ投げかけられた”目配せ”なのかもしれない。


 そして、両作の共通性を探る上でいちばん決定的なのは、やはり防犯カメラ映像から割り出されたブリルの”写真付きの極秘データ”だろう。ここで登場する若き日の写真は、フチありメガネにヒゲ姿。『カンバセーション…盗聴…』のハリー・コールの姿そのものである。


 でもだからと言って、本作はそれ以上の無駄な詮索や深堀りは一切しない。サラッと流して観る者をストーリーに集中させるのみ。さもそうすることが美学であり、本作の流儀だとでも言っているかのようだ。



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