2021.03.16
製作の裏側から見えてくるもの
表層的な部分だけでなく、映画製作の裏側にも目を向けてみよう。すると真っ先に目に止まるのが脚本家の名前だ。デヴィッド・マルコーニ。メジャーとはいえないまでも、『ダイ・ハード4.0』(07)の原案やジャッキー・チェン主演の『ザ・フォーリナー/復讐者』(17)の脚本を担う才人である。興味深いことに彼は大学卒業後、コッポラの『アウトサイダー』(83)や『ランブルフィッシュ』(83)のスタッフからキャリアを始めている。
その後、彼は90年代の初頭、ブラッカイマー側から提示された「一人の男がテクノロジーによって追い詰められていくスリラー」といった要望をもとに、オリジナルの脚本を書き進めていった。
もちろん、この時点ではまさか『カンバセーション…盗聴…』のジーン・ハックマン本人が主演することになるとは夢にも思わない状態で、当然ながらオマージュとしてのビジョンも芽生えることのないままでの執筆だったようだ。
『エネミー・オブ・アメリカ』(c)Photofest / Getty Images
一方、ここに新たな流れを持ち込んだのがトニー・スコット監督だ。もし彼のスリリングなビートがなかったら、本作はもっとシリアスで陰鬱な作品と化していたかもしれない。そんな彼は「なかなかキャスティングのアイディアが浮かばなかったが、第二稿を読んで初めてウィルとジーンの名前が浮かんだ」と語っている。
やがて、なかなか首を縦に振らなかったジーン・ハックマンが参加を決めると、対するウィル・スミスは「ハックマンと共演できるなら」と当時の彼にしては安すぎるギャラだったにも関わらず出演を承諾。こうして主要キャストが決まったのをきっかけに、本作の細部は一気に具体性を帯びていくことに。おそらく『カンバセーション』のオマージュ的なアイディアもこの段階から徐々に盛り込まれていったのではないだろうか。
また、一説によると、多忙だったデヴィッド・マルコーニに代わり、アーロン・ソーキンやヘンリー・ビーン、トニー・ギルロイといった錚々たる書き手たちもリライト要員として参加。ノークレジットで腕を振るったと言われる。