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『悲情城市』台湾の歴史的事件を記録した、侯孝賢の初期集大成

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『悲情城市』台湾の歴史的事件を記録した、侯孝賢の初期集大成

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『悲情城市』はホウ・シャオシェンの初期集大成だった



 『風櫃の少年』で自分のスタイルを見つけたホウ・シャオシェンは、朱天文の原作をもとにした『冬冬の夏休み』(84)、自伝的な『童年往事/時の流れ』(85)など代表作となる映画を次々に発表し、国際的にも注目を集めていく。1988年1月に行われた田村志津枝によるインタビューで、ホウ・シャオシェンは、これまでの作品は自分にとって習作だったとし、これからつくる新作は卒業制作のつもりだと述べている。彼にとって、1980年代を通してやってきたのは映画作りのレッスンだったのだ。取材の後、彼は『悲情城市』(89)の撮影にとりかかかる。


 これまでの訓練を結実させた映画になるだろう。そんな彼の予感どおり、『悲情城市』はホウ・シャオシェンの初期集大成となった。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、仲間や祖国に大きな喜びをもたらした。国際映画祭でのグランプリ受賞は、台湾映画ではこれが初めてだった。また、それまで主に現代の若者たちを映してきたホウ・シャオシェンにとって、自分の体験していない時代を扱う初の歴史劇となった。


『悲情城市』予告


 『悲情城市』の舞台は、半世紀におよぶ植民地支配から解放された戦後台湾。1945年から49年にかけて、港町・基隆(キールン)で酒場を営む林一家の興隆と衰退を描く。酒場を営む林阿祿には四人の息子がいる。父親の事業を継ぐ長男は、終戦の日に愛人に息子が生まれたばかり。次男は軍医として南洋に渡って以来消息不明に。三男は戦地からようやく戻ってきたが、精神を病んでいる。四男の文清は、八歳のときの事故で耳が聞こえなくなり、今は父が建てた写真館で働いている。映画は、年老いた父と四兄弟が時代の波に翻弄されていく様を、美しい叙事詩として映す。


 四男の文清役を演じるのは、人気俳優トニー・レオン。文清が聴覚障害者という役になったのは香港出身のトニー・レオンが台湾語を話せなかったため、というのは有名な話。だがそれによって意図せぬ効果も生まれた。この映画には、ホウ・シャオシェン映画の常連俳優が大勢出演するが、トニー・レオンのようなスター俳優とは演者としての立場に歴然とした差があった。だからこそ、トニー・レオンが一言も言葉を発せずひとり傍観者としての立場に立ったことは、俳優たちの間にあった見えない境界線を絶妙に隠す役割を果たしたのだ。





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