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『悲情城市』台湾の歴史的事件を記録した、侯孝賢の初期集大成

(C)ぴあ株式会社

『悲情城市』台湾の歴史的事件を記録した、侯孝賢の初期集大成

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固定ショットと長回しを多用した撮影スタイル



 歴史的意義とは別に、いま改めて『悲情城市』を見直すと、画面の美しさにただただ圧倒される。ここにはホウ・シャオシェン映画の形式的特徴がふんだんにある。多くの場面が固定(フィックス)ショットで長時間撮影され、クロースアップは使用しない。切り返しもない。移動撮影もほぼ存在しない。画面は暗く、台詞は最小限。人々は広大な風景のなかに埋もれ、その一部となる。


 広々とした山あいの風景を、酒場が立ち並ぶ港町を、カメラはじっと動かず映し続ける。一見、何も起こらない時間のよう。でもそこには必ず、はっと息を飲むようなアクションが映り込む。奥から走りくる男たちが見えたかと思うと、次の瞬間、激しい乱闘が始まる。あるいは画面の手前で佇む一人の男がゆっくりと画面奥へ向かえば、それはすぐに敵への襲撃場面に変わる。カメラは常に画面奥から手前へ、あるいは手前から奥へと移動する人々を映し、運動を捉える。『悲情城市』は、映画の基本的な技法を私たちに教えてくれる。固定ショットは画面の奥行きを見せる。そして長回しはアクションの始まりを記録する。


 ホウ・シャオシェンはよくこんなことを言う。「自分が大事にしているのはその場の情感や雰囲気であり、構図やショットではない」。クロースアップに頼らないのも、固定ショットや長回しを多用するのも、雰囲気を大事にするため。カメラを極力動かさず、照明もなるべく自然光を使う。そうすれば、俳優の演技や物語よりも現実そのものが映し出されるというわけだ。


 『悲情城市』(C)ぴあ株式会社


 だからといって、彼が俳優の演技を軽視したわけではない。『悲情城市』の撮影監督、陳懐恩(チェン・ホアイエン)は、ホウ・シャオシェンほど撮影をコントロールしたがる監督は知らない、と証言する。雰囲気を重視するため画面をかなり暗くして撮ると、監督は「これでは俳優の演技が見えない」と文句をつけることもあったという。構図やショットを重んじないわけではない。彼が考える雰囲気や情感は、厳格な構図やショットと常に結びついているのだ。





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