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『博士と狂人』メル・ギブソン×ショーン・ペン、二人の熱量を融合に導く“作家性”

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『博士と狂人』メル・ギブソン×ショーン・ペン、二人の熱量を融合に導く“作家性”

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メル・ギブソン×言語という作家性



 俳優メル・ギブソンといえば、『マッドマックス』や『リーサル・ウェポン』シリーズ、『ブレイブハート』(95)のイメージが強いだろうが、本作においては監督としての彼を見たほうがスムーズではないか。


 彼が監督を手掛けた劇映画は、下記の通り。


顔のない天使』(93)

『ブレイブハート』(95)

パッション』(04)

『アポカリプト』(06)

ハクソー・リッジ』(16)


 『パッション』の続編や『ワイルドバンチ』のリメイクの話もあるが、コロナ禍で多くの企画が流動的になっており、確定情報とは言えなさそうだ。


 ここで注目したいのは、『博士と狂人』にも通じる「言語」という要素。『パッション』は全編アラム語とラテン語、『アポカリプト』は全編を通してマヤ語で構成されており、ギブソンにとって、言語をテーマにした作品への興味は高かったのではないか(両作品とも、専門家からは厳しい反応も出たようだが)。そう考えてゆくと、メル・ギブソンと『博士と狂人』がつながってくる。



『博士と狂人』© 2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.


 また、彼の作風として、容赦のない描写が挙げられる。物議をかもすほど凄惨な描写も臆せず取り入れていくスタイルを標榜しているが、それは彼のこだわりが故。本作においても、美術や衣装、照明や小道具から色調、質感等々、画面に映る様々な要素に歴史ものとしての“本物感”を担保している。また、マイナーが南北戦争で負った心の傷を思い出しつつ、けがを負った看守を救出するシーン等、なかなかに凄惨な描写が挿入される。クレジットとしてはギブソンの監督作ではないにせよ、彼の美意識が隅々まで生き届いた作品であるとはいえるだろう。


 そこに加わる、ギブソンとショーン・ペンの特濃の熱演も非常に効いている。ギブソンは権威主義がはびこる組織で後ろ指をさされたり、仕事で振り回すことになる家族への申し訳なさを感じたりしつつ、最高の辞書作りに情熱を燃やすマレーを力演。ペンは、強迫観念に取りつかれて殺人を犯してしまったマイナーを怪演。血走った目や、反り返った手がけいれんしているさま、いきなり激昂する姿など、憑依型俳優の面目躍如たる活躍を見せつけている。ギブソンが「執念」という正の狂気を見せれば、ペンが「妄執」という負の狂気を繰り出し、そのぶつかり合いが作品全体を力強くけん引しているのだ。


 ちなみに、ギブソンとペンの共演は本作が初とのこと。ともに“濃い演技”で知られる両者だが、その熱量が作品から浮くことなく、融合しているのが興味深い。これも、地盤となる画面構成や物語がしっかりと確立しているからこそだろう。




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