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『博士と狂人』メル・ギブソン×ショーン・ペン、二人の熱量を融合に導く“作家性”
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『博士と狂人』あらすじ
19世紀の英国。遅々として進まない英語辞典編纂計画のカンフル剤として、独学で言語学を学んだという異端の学者マレー(メル・ギブソン)が採用される。これまで成し遂げられなかったプロジェクト故に状況は困難を極めるが、そこに謎の協力者が登場。その人物の正体はなんと、殺人を犯して精神病院に収監中の博士マイナー(ショーン・ペン)だった……。
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辞書誕生にまつわる衝撃的な実話を映画化
事実は小説よりも奇なり――。英国の詩人バイロンの名言から生まれた、「時として現実は、創作物よりも劇的で奇異な事象が巻き起こる」という意味の慣用句だが、同じ英国でまさにその言葉にぴったりな“事件”が発生した。時は19世紀、41万語以上の収録語数を誇る世界最高峰の辞書「オックスフォード英語大辞典(OED)」を作った男たちは、学士号がない異端の学者と、殺人犯だったのだ――。
2020年に日本公開された『博士と狂人』は、この実話をベースにした伝記ドラマ。サイモン・ウィンチェスター氏によるノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」の映画化となる。
『博士と狂人』© 2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.
まずは、簡単なあらすじを紹介しよう。舞台は19世紀の英国。遅々として進まない英語辞典編纂計画のカンフル剤として、独学で言語学を学んだという異端の学者マレー(メル・ギブソン)が採用される。これまで成し遂げられなかったプロジェクト故に状況は困難を極めるが、そこに謎の協力者が登場。その人物の正体はなんと、殺人を犯して精神病院に収監中の博士マイナー(ショーン・ペン)だった……。
著名な辞書誕生の背景に、劇的な物語が隠されていた――。実話ベースの作品としてはこの上ない題材だが、辞書編纂といえば、三浦しをんの小説を石井裕也監督が映像化した『舟を編む』(13)など(どちらの作品も「言葉の海」という言葉が出てくるのが面白い)、文科系のイメージが強いテーマ。ではなぜそこに、近年特に体育会系のニュアンスが強まっているメル・ギブソンとショーン・ペンを起用したのか?と思ってしまうかもしれないが、実際はその逆で、もともとギブソンが長年温めていた企画だそう。「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」が発行された1998年の時点で映画化を希望し、約20年かけて練り上げてきた プロジェクトだという。
監督は彼の監督作『アポカリプト』(06)の脚本に参加したファルハド・サフィニア(諸事情により、本作にはP.B.シェムランの名でクレジットされている。この部分は後述)。元々はギブソン自身がメガホンをとる予定だったとのことで、並々ならぬ熱意を注いでいたことがうかがえる。
なお、一時はリュック・ベッソンも本作の映画化に動いていたのだとか。そういったエピソードを知るにつけ、いかに本作が人々を引き付ける題材だったかが見えてくるのではないか。