(c)2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『ビーチ・バム まじめに不真面目』父親から受け継いだハーモニー・コリン・メソッド
2021.04.28
ジャスト・ライク・ヘヴン
嘆きを歌うブルースが何かの希望に変わるわけでもなく、嘆きの声として、ただその土地に唯物的に響く。いわば霊歌のような祈りの響きがこれまでのハーモニー・コリンの映画における音楽、音声の在り方だった。同じように、『ビーチ・バム』の劇中で流れるザ・キュアーの「ジャスト・ライク・ヘヴン」は、まだ何も起きていないキーウェストの土地の夜空と恋人のいる時間に共鳴する。「ジャスト・ライク・ヘヴン」は、ザ・キュアーのフロントマン、ロバート・スミスが恋人と過ごしたビーチ(自殺の名所として知られるイギリスのビーチ・ヘッド)で着想を得た曲だ。
目を覚ますと自分が一人なことに気づいた
荒れ狂う海の上で、たった一人
海が、たった一人の恋人を奪い去っていった
~ザ・キュアー「ジャスト・ライク・ヘヴン」~
The Cure - Just Like Heaven MV
ハーモニー・コリンの映画作法において、失敗や不器用さは、彼の作り出す「フェア」な環境によって許容される。初めての映画を見るように映画を発明することを理想とするハーモニー・コリンの喜び=笑いが画面に溢れている。
『ビーチ・バム』は、笑いのなくなった世界で笑い続けること、自分を笑わせ続けることの大切さを教えてくれる。そしてこの作品は同時に、孤独であることはとても美しいことなのだと肯定してくれる。だからこそ、どこまでも楽しく生きていきたいムーンドッグが打ち上げた盛大な花火に涙せずにはいられない。
すべてを手に入れながら、すべてを失い、すべてを手にとらない。笑いと感傷だけが海にまかれた遺灰のように流されていく。ここは極めてフェアな天国なのだ。ジャスト・ライク・ヘヴン。
*Eric Kohn著「Harmony Korine : Interviews」より
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『ビーチ・バム まじめに不真面目』
4/30(金)よりキノシネマみなとみらい・立川・天神ほか全国順次公開
提供:木下グループ/配給:キノシネマ
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