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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべての問題を笑い肯定する、アニメーション映画の新次元

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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべての問題を笑い肯定する、アニメーション映画の新次元

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『スパイダーマン:スパイダーバース』の先へ



 遊び心たっぷりのアレンジが施されたソニー・ピクチャーズ&コロンビア映画の社名ロゴに続いて映し出されるのは、微笑ましい実写の家族写真。物語はロボットの反乱まっただなか、オンボロの車で爆走するミッチェル家の姿から始まる。手描き風のテイストで描かれたミッチェル家の面々に対し、CGアニメーション。街並みやロボットは3DCGの硬質な特徴が強調され、背景はさらに異なる画風が見て取れる。また、開始2分足らずで実在するネットミームの直接的引用。タイトルロゴは手書きのデザインで、さらには2Dアニメーションや実写映像も全編を通して飛び出してくる。


 映画監督志望のケイティの頭の中はイマジネーションでいっぱい。彼女の脳内のごとく、あるいはおもちゃ箱をひっくり返したかのごとく、『ミッチェル家とマシンの反乱』ではありとあらゆるイメージが目の前を通り過ぎていく。これぞ現代の映像感覚ではあるが、初見時にはその密度に驚かされることだろう。



『ミッチェル家とマシンの反乱』©2021 SPAI. All Rights Reserved.


 独自の映像スタイルを開発するきっかけとなったのは、これがプロダクション・デザイナー&キャラクター・デザイナーとしてのデビュー作となったリンゼイ・オリヴァーレス。彼女が描いた水彩画のイラストレーションを見たリアンダ監督が、そのスタイルを作品に取り入れたいと考えた。監督は「わかりづらいけれど、よく見てもらえば気づくはず」と語っているが、本編の背景に注目すると一目瞭然。たとえば空の色や雲の形、煙の軌跡などに“滲み”が見える。


 もうひとつのポイントは、キャラクターの表現をできるだけ自然なものにしたことだ。変人一家を実在感たっぷりに描くため、リアンダ監督は「しわしわ」で「ごつごつとした」リアルな人間のデザインを求めた。ただし、「コンピュータが非常に苦手とするものだということはわかっていました」と監督は語る。


 水面下で試行錯誤が行われていた『ミッチェル家とマシンの反乱』だが、実は企画が始動したのは2015年ごろ。『スパイダーバース』チームの最新作であることに違いはないが、2作の開発は並行して進められていたのである。ある時、開発中の映像に感銘を受けたロード&ミラーがプロデューサーへの就任を決め、『スパイダーバース』の技術が追加投入されることが決まった。たとえば『スパイダーバース』ではドットで描かれたような部分が、本作では筆の表現に置き換えられている。


『スパイダーマン:スパイダーバース』予告


 リアンダ監督いわく、「『スパイダーバース』が動くコミックだとしたら、こちらは動くイラスト」。父親・リックに至っては、ジャケットのしわ、左右非対称の口ひげといった表現のリアルさにこだわったため、「ソニー史上もっとも予算のかかったキャラクター」となったとか。VFXスーパーバイザーのマイク・ラスカーは『スパイダーバース』からの続投となったが、製作中に「前回よりも大変な作業だ」と口にしていたという。


 3DCGのアニメーションにさまざまなスタイルを投入し、2Dのアニメーションやイラスト、実写映像を次々と重ねていく。アクションでは画面に映るすべてが躍動し、アニメーションの快感をたっぷりと味わわせてくれる。画面の目まぐるしさは型破りだが、これはアニメーターの発想を積極的に取り入れたがゆえの産物。リアンダ監督は「新しいものを作ってほしい」と製作チームにオーダーし、出てきたアイデアを組み合わせながら形にしたのだ。「全体の90%くらいはアニメーターのアイデア」とは監督の談である。




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