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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべての問題を笑い肯定する、アニメーション映画の新次元

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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべての問題を笑い肯定する、アニメーション映画の新次元

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スタジオジブリの影響、コロナ禍の先見性



 本作は企画の始動から実現までに6年を費やしたが、これはリアンダ監督がソニー・ピクチャーズから「映画を撮らないか」という提案を受けてからの歳月だ。監督はアイデアに悩んだ末、自分の家族を題材に、幼少期に大好きだったロボットの物語にすることを決めた。すなわち、この映画はリアンダ監督自身の体験に基づく作品なのである。根底に流れる優しさも、シニカルさも、ドライな側面も、すべてパーソナルな部分に由来しているのかもしれない。


 そのほか、リアンダ監督が影響を公言しているのは、「ザ・シンプソンズ」(89~)や「レンとスティンピー」(91~96)「スポンジ・ボブ」(99~)といったテレビのカートゥーンのほか、宮崎駿・高畑勲によるスタジオジブリ作品。本作『ミッチェル家とマシンの反乱』を、ある時期の監督は「郊外で薄汚れた宮崎駿作品みたいな感じ」とも形容していたとか。その意味については、「あくまでも現実を出発点に、ファストフードの紙袋も美しく描きたいと思ったから」と説明されている。



『ミッチェル家とマシンの反乱』©2021 SPAI. All Rights Reserved.


 『ミッチェル家とマシンの反乱』は、もともと2020年1月に米国で劇場公開される予定だったが、のちにコロナ禍のために公開時期が未定となっていた。その後、Netflixが配給権に興味を示したため、製作陣は「映画を2年も寝かしておきたくない」と配信リリースに踏み切っている。監督は「予期せぬ災害に襲われた家族の物語ですから、映画の精神が(コロナ禍に)マッチしました」と述べた。「集まり、協力して、乗り越える。これがパンデミックに必要なことだと思うから」。


 もうひとつ、コロナ禍によってタイムリーなものとなったのはテクノロジーの扱い方だ。映画の中ではテクノロジーが人々を引き裂き、追い詰めていくが、現実のコロナ禍ではテクノロジーこそが対面で会えない人々を繋ぐための道具になった。偶然にもリアンダ監督は、本作を手がけるにあたり「テクノロジーは人間を結びつけるのか、それとも引き離すのか」というテーマについて考えていたそう。そこで導き出された答えは、たしかに今の世界に通じるものとなっている。


 新たな次元を目指したアニメーションに興奮するもよし、練られたストーリーテリングとユーモアを堪能するもよし、優しくもドライなテーマへの視線を噛みしめるもよし、あるいは今という時代を作品に重ね合わせるもよし。ぼんやり観ていると面食らうほどの作り込みは、いろいろな楽しみ方をきちんと保証するものだ。画面の細部まで目を凝らして見直せば、きっと何度でも違った発見ができるはず。『スパイダーマン:スパイダーバース』同様、賞レースでの健闘にも期待したい。


[参考資料]

The Mitchells vs. The Machines: How Michael Rianda Made a 'Dirtbag Miyazaki' Movie

Why Netflix's 'The Mitchells vs. the Machines' Is a Major Moment for Animated Movies

The Mitchells vs. The Machines Director Reveals the Film Has a Secret Robot Language

'THE MITCHELLS VS. THE MACHINES' ALMOST HAD A SPIDER-MAN CAMEO, DIRECTOR SAYS

[INTERVIEW] Director Mike Rianda (‘The Mitchells vs. the Machines’)

How ‘The Mitchells vs. The Machines’ Went Beyond the ‘Spider-Verse’ to Fight the Robot Apocalypse

Director Mike Rianda On The Six-Year Journey Of ‘The Mitchells Vs. The Machines’ & Where To Find The Sequel Easter Egg [Interview]



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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『ミッチェル家とマシンの反乱』

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