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『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

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饒舌な語り手、ヒュー・グラントとガイ・リッチーの「余裕」



 『ジェントルメン』の物語は、マシュー・マコノヒー演じるミッキーがパブで襲撃されるシーンから始まる。ビールを注文して席につき、電話で話しはじめたミッキーだったが、後ろで黒服の男が銃を構えるのだ。たちまち血しぶきが飛び、ビールのグラスにも黒い血が沈む。


 なぜ、こんなことになってしまったのか? 語り手はヒュー・グラント演じる私立探偵・フレッチャーだ。ミッキーの右腕であるレイ(チャーリー・ハナム)をひっそりと訪ねていたフレッチャーは、ゴシップ誌の編集長・デイヴから依頼を受け、ミッキーたちを尾行していた事実を明かす。フレッチャーはミッキーらによる犯罪の証拠をつかんでおり、口止め料の2,000万ドルを払わなければ全てが世間に流出すると告げた。真実が白日の下にさらされれば、ミッキーの事業売却と引退の計画は無に帰してしまう。果たして、フレッチャーはいったい何をどこまで知っているのか。



『ジェントルメン』© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.


 どうやら映画好きらしいフレッチャーは、自分が取材したミッキーたちの物語を『Bush(大麻)』という映画の脚本にしていた。『ジェントルメン』はフレッチャーの語りを、すなわち『Bush』の脚本をたどるように展開していく。かくして、「これは映画である」という自己言及を前面に押し出しながら物語は進み始める。


 今回のストーリーテリングのうまさは、このフレッチャーという男に語り手の役目を担わせたところだ(なんとフレッチャーは自分が「語り手」であることを自覚している)。『ロック、ストック~』や『スナッチ』とは異なり、本作の主要人物は大人ばかり。基本的にみな冷静で、粛々と事態に対処し、表面的には淡々と言葉を交わすのだが、そんな中でフレッチャーだけが、やけにへらへらと、妙なハイテンションのままに出来事の経緯を喋りつづける。その饒舌な語りが映画全体を駆動させていくのだ。


 しかしフレッチャーの厄介なところは、ときに映画的に派手な展開を優先し、ときには映画の脚本であることをことさらに強調する点にある。それゆえ、レイはしばしば「アイツはそんなことしない」「荒唐無稽すぎる」とたしなめたり、観客ともどもフレッチャーのお遊びに付き合ったりすることに。そう、フレッチャーは“信頼できない語り手”なのである。


 ミッキーをはじめとする大勢の登場人物たちが、複雑な状況下でそれぞれの思惑のもとに暗躍する物語を、ガイ・リッチーはフレッチャーの口を借り、きわめて饒舌に、かつ巧妙に情報をコントロールしながら余裕たっぷりに語っていく。監督デビューから約20年、まるで物語を語ること自体を楽しんでいるかのような熟練者のストーリーテリングだ。リッチー作品の特徴である、リズミカルで時に荒々しい編集との相乗効果にも注目してほしい。




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