1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ジェントルメン
  4. 『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』
『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

PAGES


会話劇は言葉のアクション、登場人物とセリフの妙



 ガイ・リッチーによる脚本の大きな魅力は、凝った劇構造と、鮮やかに収斂していく伏線の快感にある。『ジェントルメン』における構造へのこだわりは先に触れた通りだし、もちろん多くは語らないが、伏線のさばき方も相変わらずお見事。そんな物語を転がしていくのが、ガイ・リッチー作品のもうひとつの魅力であるキャラクターたちだ。


 出てくるのはクセ者ばかり、どいつもこいつも初登場からキャラが立ちまくる。一瞬で観客の心をつかみ、あるいは警戒させる人物の書き分けと演出は『ロック、ストック~』から現在まで一貫する“お約束”だ。男同士の関係性が際立つドラマもポイントで、そのテイストは『シャーロック・ホームズ』シリーズ(09~11)や実写版『アラジン』(19)にも引き継がれ、むろんオリジナル脚本である『ジェントルメン』では濃厚に香り立つことになる。


『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』予告


 映画全体がフレッチャーの語りによって進む以上、もっとも大切なのはセリフだ。ほぼ全編にわたって喋りまくるフレッチャー役のヒュー・グラントは、膨大なセリフを覚えるのに数ヶ月を費やした。登場人物の会話も丁寧に練り上げられ、優雅な言葉運びの中にFワードが飛び出す、繊細な内面やブラックユーモアがにじみ出るなど、そのありようはさまざま。ガイ・リッチーは撮影中も脚本を日々書き直しており、ミッキー役のマシュー・マコノヒーは、改稿のたびに言葉が生き生きとする実感を覚えたそう。豊富なキャリアを誇る彼をもって「今までに演じた役とは別次元のおいしいセリフだった」とまで言わしめている。


 ガイ・リッチーのセリフを「詩的な言葉遣いで、戯曲のような音楽性と鋭さがある。オスカー・ワイルドやノエル・カワードのよう、まるで舞台劇みたいだ」と語ったのは、大富豪・マシュー役のジェレミー・ストロング。このコメントは本作の核に触れていて、繰り広げられるセリフの応酬にはアクションのごとき快感がある。じつは、本作でアクションやバイオレンスが起こるのは、人々の緊張がピークに達した場合がほとんど。それまでは互いの出方を伺いながら言葉のアクションを演じるため、大人たちの会話劇をじっくりと堪能できる。クライマックスでウィリアム・シェイクスピア作「ヴェニスの商人」が引用されるあたりからも、すべてはガイ・リッチーの狙い通りであることがわかるだろう。



『ジェントルメン』© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.


 そんな本作では、必然的に俳優の全員が魅力的に映る。大人の落ち着きと内に秘めた狂犬ぶりを同居させたミッキー役のマシュー・マコノヒー。冷静沈着ながら腹に一物抱えた佇まいを見せるレイ役のチャーリー・ハナム。『スナッチ』のベニチオ・デル・トロにもどこか通じる怪演でイメージを裏切ったのは、ドライ・アイ役のヘンリー・ゴールディング。コーチ役のコリン・ファレルはくたびれたカッコ良さとユーモアセンスを存分に発揮し、フレッチャー役のヒュー・グラントは、かつて“ラブコメの帝王”と呼ばれた過去を払拭するような怪物ぶりで物語を牽引する。


 ストロングは「いったん核となるトーンを見つけたら、あとは自由で楽しい。演劇的なことをしたり、脚本から外れたことを試したりするのも許してくれた」と言い、ファレルは「ガイ・リッチーの映画にはリフがある。ジャズのように互いに反応しあって、いろいろな音が響き合う」と話す。群像劇のあちこちに光る芝居の楽しさは、リッチーによる脚本・演出と、豪華キャストの実力の化学反応によるものだろう。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ジェントルメン
  4. 『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』