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『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

『ジェントルメン』あれからみんな大人になった。まるで20年後の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』

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みんな大人になった、20年後の『ロック、ストック~』



 ここまで『ジェントルメン』における構造的な企みとキャラクター&セリフの魅力を追いかけてきたので、最後に、約20年を経て最も大きく変化したポイントを挙げることで本稿を締めくくりたい。それは、ガイ・リッチー自身にせよ、彼が描く登場人物にせよ、「みんなが大人になった」ということだ。


 たとえば、かつては乱暴者だったらしく、仕事のために自らの手を血に染めたミッキーも、今では中年を迎えて引退を現実的に考えるようになった。彼のビジネスは周到で、いずれ大麻が合法化された後のことも見据えているし、売却相手にもその上で交渉を行う。大麻の農園は貴族の敷地を利用しており、彼らは持ちつ持たれつの関係性にあった。政治的にも倫理的にも、またビジネスとしてもグレーなエリアをミッキーは渡り歩いている。若者のように、一時の怒りに任せて暴走することはない。



『ジェントルメン』© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.


 そんなミッキーのもとに降りかかるトラブルも、もはや銃撃戦だけで解決できるようなものではなかった。ミッキーを監視するメディア、そこからも独立している探偵、国や文化を超えてミッキーたちの動向をにらむチャイニーズ&ロシアンマフィアなど、彼の進退と縄張りをめぐる腹の探り合いには政治の匂いがある。『ロック、ストック~』『スナッチ』と同じく、事件が事件を呼ぶ展開もあるが、その裏側は両作よりも複雑で、出来事のリアリティも増している。若者のトラブルより、大人のトラブルのほうがよほど対処に苦労するということか。


 かつてガイ・リッチーが初期作で描いたのは、あえて大ざっぱに言うならば「若者たちの暴走と反抗」だった。そこには若者の前に立ちはだかる大人がいて、彼らは間違いなく恐ろしかったのである。『ジェントルメン』で主要人物となったのは、そんな“怖い大人たち”だ。本作にも若者たちは登場するが、大人から見ると、彼らはいちいち子どもで、思慮に欠け、その場しのぎで、そのくせ大人をバカにする。それゆえ大人はほとほと困らされるわけだが、これは過去にガイ・リッチーが描いた物語の構図をそのままひっくり返したもの。何かあるたび必死に大騒ぎする若者をユーモアの対象として、あるいは大人の悩みの種として描いたところに、「みんなが大人になった」ガイ・リッチー作品の20年間を垣間見るのである。


[参考文献]

『ジェントルメン』プレス資料



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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『ジェントルメン』

5月7日(金)全国ロードショー

© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

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