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『トレインスポッティング』青春劇に込められたキューブリックへの熱烈なるリスペクトとは?

『トレインスポッティング』青春劇に込められたキューブリックへの熱烈なるリスペクトとは?


ダニー・ボイル監督に影響を与えたキューブリックの言葉



 とはいえ、作り手たちにとっては、これが一体どんな作品に仕上がるのか、観客や批評家からどのような審判が下るのか、自分たちの信じる方向性は正しいのかどうかも含めて、すべてにわたって予測がつかない状況だったことだろう。後に『 スラムドッグ・ミリオネア』でオスカー受賞監督となり、ロンドン・オリンピック開会式では芸術監督を務めるなど英国を代表するクリエイターとなるダニー・ボイル監督はこのとき40歳。人は未知なる領域にチャレンジするとき、何をよすがとして創造性の森へと分け入っていけば良いのか。 


 ここでボイルにとって指針の一つとなったのが『 2001年宇宙の旅』や『 シャイニング』などで知られる巨匠スタンリー・キューブリック監督が唱えた「映画で大切なのは言語化することではなく、実際に(観客に)体験させること」という言葉だった。 


 今でこそ3Dや巨大スクリーン、さらには揺れや匂いを兼ね備えた4Dの台頭する時代となったが、そもそも映画とは、ストーリーを伝えるのみならず、そこに付随する匂いや空気、光や風、登場人物の心理状況に至るまで細やかなディテールを描いて、観客をその世界の真ん中へといざなうもの。キューブリックが口にした「体験」という言葉の意味するところは極めて大きいと言えるだろう。 


 『トレインスポッティング』には若者たちがドラッグを摂取するシーンで快楽の絶頂に達していく描写や、そこから急転直下、ドラッグ断ちを決意して、現実と妄想が悪夢のように入り乱れた過酷な精神状態を体感するくだりもある。 


 それから忘れてはならないのが、映画の名物ともなった「スコットランドで最悪のトイレ」。便意をもよおした主人公がここへ駆け込み、糞尿にまみれた便器に顔を突っ込み水中へと潜水していくという常人では考えつかないようなシーンが織り込まれている。未見の方にとってはもはや強烈さを超えて、なにか神秘的な精神状態さえ覚醒してしまうこと請け合いだ。 


 いうまでもなく、これらはいずれも、我々が日常的な暮らしを送る上では体験しえないものばかり。単にストーリーを物語るというだけのメンタリティでは到底なし得るものではなく、映像による刺激は観る者が持つあらゆる感性へと直接的に働きかけ、気がつくと我々もまた、登場人物の一人のようにその世界で呼吸し、汗をほとばしらせ、のたうちまわり、疾走を繰り返しているのである。 


 そして、この映画のインパクトが英語圏にとどまらず、その他の国々へ広がっていた背景にも“体験”という要素があったことは間違いない。かくも映像体験は言語を超えて直感的に訴えかけてくる。キューブリックの語った「大切なのは体感させること」という真理。低予算の中でもこの意識があったからこそ、『トレインスポッティング』は美術、演技、撮影方法などで飽くなき創意工夫を繰り返し、これほどハイレベルな視覚的、体感的な映画となりえたのだ。



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