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『ブリット』カーチェイスの新たな地平を築いた、’60年代を代表する刑事ドラマ

Bullitt ©1968, Package Design & Supplementary Material Compilation ©2008 Warner Bros.Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All Rights Reserved.

『ブリット』カーチェイスの新たな地平を築いた、’60年代を代表する刑事ドラマ

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カーチェイスの歴史を塗り替えた撮影技術&ロケーション



 では、『ブリット』のカーチェイスは何が新しかったのか?


 映画の黎明期から、もちろんカーチェイスは存在していた。といっても、巨大なカメラを屋外に設置して、走り去るクルマをパンで捉えるくらいだが。映画製作者たちを悩ませたのは、むしろ運転するドライバーをどう撮るか、にあった。当時のカメラは大きすぎて、とても車内には持ち込めない。そこで考えられたのが、スクリーン・プロセスと呼ばれる方法。車両の模型に俳優たちを座らせ、車外の光景は別に撮影した映像をスクリーンに投影することで、疑似的に走行シーンを生み出していたのである。コレなら、スタントマンをいちいち雇わなくてもいいし、背景の映像を変えることでシーンに変化をつけられる。製作面では非常にメリットの大きい撮影方法だが、いかんせん作り物感は拭えない。


 やがて日進月歩の技術革新により、カメラは徐々に小さくなってコンパクトに。ピーター・イェーツは、軽量のアリフレックス・カメラを車内に持ち込むことで、追いかけるマックイーン、追いかけられる殺し屋たちのバストショットを捉えた。これによって、リアリティが段違いに向上。カーチェイスのルックが刷新される。


『ブリット』Bullitt ©1968, Package Design & Supplementary Material Compilation ©2008 Warner Bros.Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All Rights Reserved.


 もう一つ、車載カメラの狙いがあった。運転するマックイーンの視点…主観ショットだ。フロントガラス越しに写る光景を、そのまま映像に取り込んだのである。効果はテキメン。ドライバー視点の映像が加わることで、臨場感&ライド感がマシマシに。1968年製作の映画にも関わらず、観客はまるでVR的な感覚でカーチェイスを堪能できるようになった。


 1. カーチェイスを繰り広げるフォード・マスタングとダッジ・チャージャーの外景ショット

 2. 運転するマックイーンと殺し屋たちのバストショット

 3. 運転するマックイーンの主観ショット


 の3つのショットの組み合わせによって、『ブリット』は新しいカーチェイスの地平を築いたのである。アカデミー賞編集賞に輝いた、フランク・P・ケラーの卓越したエディット・センスが光る。


 サンフランシスコという土地柄も大きな要素だった。アップダウンが激しく急勾配が多いこの街は、クルマを走らせるだけでジェットコースター並みのスリルが味わえる。平坦な道路では映像表現的に「横の運動」しか補完できないが、サンフランシスコを舞台にすることで、「縦の運動」を加えることができるのだ。この映画では、“坂”が映像的ダイナミズムに大きな貢献を果たしている。


 音響面にもこだわった。この映画のカーチェイスシーンには、いっさい劇伴が流れない。音楽を担当したのは、『ダーティハリー』(71)や『燃えよドラゴン』(73)で知られる名作曲家ラロ・シフリン。彼はエンジン音こそが最高のサウンドトラックになると考え、あえて劇伴を使わないことを提案したという。うーむ、見事な計算なり。





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