2018.02.25
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ソフィア・コッポラ、5年ぶりとなる新作
『ブリングリング』から5年。ようやく私たちのもとにソフィア・コッポラの新作が届く。この間、彼女は決して映画の世界から遠ざかっていたわけではない。二人の幼い娘を育てながら、表現者としてこれまで以上に幅広い挑戦を続けてきたと言っていい。中でも実写版「リトル・マーメイド」への取り組みは、初の大作映画への進出として世間の注目を集めたものだった。しかし制作費が大きくなることで創造性の自由を失いかねないジレンマに直面し、最終的に彼女は降板を決意。こうやって自分を貫くところも実にソフィアらしい。
彼女はその後、劇場映画の枠にとらわれず、Netflixで「ビル・マーレイ・クリスマス」を発表し、さらに初のオペラ演出となった「椿姫」では余命少ないヒロインの愛を、ソフィアらしい繊細さとダイナミックさで見事に彩って見せた。それらはすべて彼女自身が直感的に「面白い」と感じ、なおかつ作品のあらゆる瞬間に自らが直接魂を吹き込める規模のものばかり。きっとこの親密さこそ、ソフィアらしい唯一無二の表現性が生まれる源泉と言えるのだろう。
『ソフィア・コッポラの椿姫』クラシックと奇跡の融合を果たしたソフィアの作家性とは
かくも数年の旅路を経て、再び劇場映画の世界に戻ってきたソフィア・コッポラ。『ブリングリング』を終えた頃から「次回作は、視覚的に美しく、繊細なものにしたい」と心に決めていたというが、新作『The Beguiled / ビガイルド 欲望のめざめ』はまさにその言葉どおりの、陶酔するほどの美しさを秘めた一作となった。だが油断は禁物だ。これまでのソフィア作品とは何かが違う。ポップ・ミュージックなどここでは一切聴かれないし、ベッドやソファに寝そべる少女たちの姿を延々と映し出すこともない。その上、幻想的な空気は突如として沸点を超え、穏やかだったはずの物語がまさかのゴシック・スリラーのような趣きへと転じていくのだ。これがお披露目されたカンヌ国際映画祭では、ミヒャエル・ハネケやジャック・ドワイヨンといった巨匠を抑えて、見事、監督賞を受賞。女性監督が同賞を受賞するのは56年ぶり、史上2人目だという。