2021.05.29
コンサートにあらず――“ここは教会で、これは礼拝”
肝心の映画の中身について触れていこう。まずはっきりさせておかねばならないのは、これはいわゆるコンサート映画ではない、ということ。映画の冒頭でジェームズ・クリーブランド牧師が語るように、“ここは教会で、これは礼拝でもある”と語る。いわゆる“公演”との違いは、ここにある。
クリーブランドはアレサの父の教会で音楽担当をしていたことがあり、彼女の音楽の師匠的な存在でもある。アレサは『至上の愛 チャーチ・コンサート』のレコーディングに当たり、まず彼に相談を持ちかける。会場の選定から選曲、楽曲のアレンジにいたるまで、クリーブランドは本作に深く関わることになった。コーラスを務める南カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊は、当時クリーブランドが率いていた自慢の聖歌隊だ。
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』 2018©Amazing Grace Movie LLC
アレサが登場して最初に披露する曲“Wholy Holy”は、マーヴィン・ゲイのカバー。ゴスペルのライブではあるが、いきなり世俗の曲が鳴らされる、というわけだ。これはクリーブランドのゴスペルの解釈が保守的ではなく、リベラルであることの表れ。アレサの評伝本「リスペクト」で、クリーブランドはこう語る。「どれも神の音楽であり、どれも素晴らしいと思っている」これ以外にもキャロル・キングの“You’ve Got a Friend”が奏でられ、さらに「ビートルズでさえ主の説教になりうる」という彼の意向から、ジョージ・ハリスンの“My Sweet Lord”がインストで演奏された。
クリーブランド牧師がこの映画において大きな役割を果たしているのは、予備知識なしに映画を見るだけでもわかる。ピアノ伴奏の流麗な響きもそうだが、曲間に語られる説教もしかり。とにかく、聴衆を乗せるのが上手い。内向的で話が上手い方ではなかったというアレサに代わり、場の空気をしっかり盛り上げる。あえてコンサートに例えるならば、彼は優れたMCでもあったのだ。