2021.05.29
神がかったボーカルとともに刻まれた時代の記録
とはいえ、クリーブランドは助演に過ぎない。主役はあくまでもアレサだ。初日、ピアノに向かい、“Wholy Holy”を歌い出したときのアレサは少々緊張気味だったのか、表情がこわばっている。しかし、2曲目の“What a Friend We Have in Jesus”になると笑顔が見られるようになり、教会内の空気をどんどんヒートアップさせる。その場を支配していく、アレサの圧倒的なボーカル。タイトルにもなった”Amazing Grace”の熱唱は圧巻と呼ぶにふさわしい。
映画が進むほど、バプティスト教会ならではの、信者とのコール&レスポンスは大きくなり、ダンスする者も現われる。“Precious Memories”のパフォーマンスでは、アレサと聴衆が相乗効果的に高揚していくさまが見て取れる。不謹慎? いや、これは彼らにとって、神への気持ちの表現に他ならない。映画ファンならば、アレサも出演していたジョン・ランディス監督の『ブルース・ブラザース』(80)における教会のシーンを思い出して欲しい。ジェームス・ブラウンふんする神父が歌うゴスペルの熱狂に信者が巻き込まれていくさまを。
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』 2018©Amazing Grace Movie LLC
2日目の会場には、アレサの父親C・L・フランクリンが現われて説教を聞かせ、彼女のゴスペル歌唱の師であり、一時は母親代わりとなっていたクララ・ウォードも姿を見せる。さらに、当時LAでアルバム『メインストリートのならず者』のレコーディング作業を進めていたザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツの姿もそこにはあった。最初こそ会場の後方につつましく控えていたジャガーも、アレサの歌に触れたことで激しく踊り出している。
そもそもバプティスト教会の礼拝をカメラが記録することは滅多にない。それがアレサ・フランクリンという神がかったボーカルとともに記録されていた奇跡。本作にはプロデューサーにスパイク・リーが名を連ねている。同時期に公開される彼の監督作『アメリカン・ユートピア』(20)も、デイヴィッド・バーンのコンサート映画という枠を超えた意義深い作品だったが、本作も同様だ。これは信仰の美しさに根差す、1970年代の社会の断面をとらえた、アーティスティックにして貴重な記録なのだ。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』
配給: ギャガ
5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
2018©Amazing Grace Movie LLC