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『ウォーターワールド』ハリウッド映画の鬼門“水”に、誰もが“失敗作”と覚悟した海洋大作

(c)Photofest / Getty Images

『ウォーターワールド』ハリウッド映画の鬼門“水”に、誰もが“失敗作”と覚悟した海洋大作

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本物の海上で撮影するリスク



 『ウォーターワールド』は、ハワイ沖で撮影された。つまり、海上に巨大なセットを組んだということだ。もちろん場面によっては、陸地に組んだセットと背景を合成したり、精巧なミニチュアセットによって撮影された場面もある。また、朽ちたタンカーでのアクション場面では、なるべく海面が見えないようなアングルに工夫されていることも映像から窺える。この場面では、飛行場に実物のタンカーを持ち込み、デジタルによる“水”を合成。ミニチュアのスーパーバイザーを担当したマーク・ステットソンは、この技術を“Digital Water”と呼び、その表現が『タイタニック』以前であることが誇りだと述懐している。


 とはいえ、海上に設置された巨大セットには片道6時間かけて船舶で移動し、そこで多くの場面が撮影された。当然、撮影にはより多くの時間とお金が必要となる。皮肉なことに、脚本家のピーター・レイダーは、「『ウォーターワールド』のアイディア自体は、もともと低予算の映画として企画されたものだった」と証言している。


 当初は『マッドマックス』(79)のような映画を、南アフリカで撮影するつもりだったのだ。それが“海”を舞台にした『マッドマックス』を目指すことになったことで、数々の誤算が始まったのである。ちなみに、この映画の初稿は1986年に書かれている。一度は企画が頓挫したものの、1990年になって『マッドマックス』の設定を引用しつつ、『シェーン』(53)を想起させるような“海の西部劇”として改稿されてゆく。


『マッドマックス2』予告


 この脚本に注目したのが、ローレンス・ゴードンだった。映画プロデューサーとして1980年代に『48時間』(82)や『ダイ・ハード』(88)をヒットさせていた彼は、当時日本ビクターの出資でラルゴ・エンタテインメントを設立。プロデューサーの立場から距離を置いていた時期だった。そんな彼のアンテナに引っかかったのが、『ウォーターワールド』の脚本だったのだ。なるほど、『コマンドー』(85)や『プレデター』(87)など今なお愛されるアクション映画手掛けてきたローレンス・ゴードンが、いかにも好みそうな企画である。


 また、『ウォーターワールド』には、弟のチャールズ・ゴードンもプロデューサーとして参加している。チャールズは『ダイ・ハード』に製作総指揮として参加したことで、兄・ローレンスと初めて組み、その後『フィールド・オブ・ドリームス』(89)が、ふたりにとって初めての兄弟プロデュース作品となった。そう、この映画の主演俳優は誰であろう、ケヴィン・コスナーなのである。


 ゴードン兄弟はケヴィンに声をかけ、ケヴィンはブレイク前の主演作『ファンダンゴ』(85)を監督して絆を深めていたケヴィン・レイノルズに声をかけた(“ふたりのケヴィン”の関係については『ファンダンゴ』記事を参照)。“ふたりのケヴィン”は『ロビン・フッド』(91)をヒットさせ、コスナーがプロデューサーを担当(出演はしていない)することで『モアイの謎』(94)をレイノルズが監督したという時代。さらに、『ウォーターワールド』で主演だけでなくプロデューサーも兼任することになったケヴィンは、アカデミー作品賞に輝いた自身の監督作『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)で撮影監督を務めたディーン・セムラーに撮影を依頼。奇しくもセムラーは、『マッドマックス2』(81)の撮影監督だったという縁もある。製作体制は、人間関係の数珠つなぎによって、順調に整えられていったのだった。



『ウォーターワールド』(C) 1995 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


 問題は製作費。当初計上された金額は、当時の映画としては限りなく最高額に近い1億3,500万ドルにものぼった。無論、配給を請け負ったユニバーサル・ピクチャーズは難色を示す。結果、6,500万ドルの予算とすることで、撮影にグリーンライトが灯った(後に1億ドルまで承認された)。ところが、予算の超過により、製作費は当初の1億3,500万ドルを超え、1億7,500万ドルにまで膨れ上がった。なぜ、そこまで超過したのか? そこには、実際に“海”で撮影したことによるネガティブな要因に加えて、キャストやスタッフを取り巻く、数々のトラブルが存在した。




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