転落の一途を辿ってしまった、スー・リオンの女優人生
ハンバート役以上に、ロリータ役のキャスティングも難航した。『避暑地の出来事』(59)で当時人気を博していたサンドラ・ディーが候補に上がるも、題材が題材だけに母親が難色を示し、歌手としても活躍していたジョーイ・ヘザートンは、父親が「そんな役は許さん!」と拒否。“BB”ことブリジット・バルドーが提案されていたこともあったが、原作者のナボコフが「イメージとかけ離れている」と却下してしまう。
最終的にこの難役を射止めたのは、アメリカのテレビシリーズ『ロレッタ・ヤング・ショー』に出演していたスー・リオン。13歳とは思えないくらいに大人びた眼差し、こまっしゃくれた表情にキューブリックが目をつけた。スー・リオンは監督の期待に応え、あどけない14歳の少女(当時の検閲では小児性愛を連想させるような表現が許されなかったため、12歳という原作の設定から14歳に変更されている)から、結婚・妊娠した17歳の若妻までを演じきっている。彼女のニンフ的魅力が、本作に大きく寄与していることは間違いないだろう。
『ロリータ』© 1961 Turner Entertainment Co. All rights reserved.
だがその後、スー・リオンの女優人生は転落の一途を辿ってしまう。脚本家クィルティに恋い焦がれたロリータ役をなぞるかのごとく、17歳のとき『ブレードランナー』の脚本家として知られるハンプトン・ファンチャーと結婚。その後離婚して、フットボール選手のローランド・ハリソンと再婚するも、彼女自身の浮気が原因でまた離婚。今度は強盗と第二級殺人の罪で収監されていたコットン・アダムソンに一目惚れして結婚、マスコミからの大バッシングを受ける。
その後は表舞台に立つことなく、結婚・離婚を繰り返して(計5回)、彼女はひっそりと女優人生からフェードアウト。お世辞にも輝かしいとはいえない彼女のフィルモグラフィーの中で、『ロリータ』は一際まばゆい光を放っている。