「Writing with Light(光で描く)」
撮影を務めたのは、ヴィットリオ・ストラーロ。ベルトルッチとは『革命前夜』(64)で知り合い、『暗殺のオペラ』(70)から撮影監督として参加。『暗殺の森』製作当時は、まだ30歳になったばかりの若さだった。その後フランシス・フォード・コッポラ監督『地獄の黙示録』(79)、ウォーレン・ベイティ監督『レッズ』(81)、ベルナルド・ベルトルッチ監督『ラストエンペラー』(87)でアカデミー撮影賞を3度受賞し、多くの撮影監督から尊敬を集めるマスター・オブ・マスターとなる。
『地獄の黙示録』予告
ストラーロは、『嵐ケ丘』(39)や『市民ケーン』(41)を手がけたグレッグ・トーランド、『揺れる大地』(48)や『夏の嵐』(54)で知られるG・R・アルドといったレジェンドたちの仕事に畏敬の念を抱き、その作品を研究して自分のスタイルを確立させていった。だがそれ以上に、ストラーロがインスピレーションの源泉として作品作りに活かしていたのが、絵画や建築。『暗殺の森』を準備する段階では、ジョルジョ・デ・キリコやルネ・マグリットのようなシュルレアリスム絵画を研究したり、モダニズム建築の書籍を読み漁ったりしてイメージを膨らましたという。
その中でも彼の作風に大きな影響を与えたのは、イタリア・バロック絵画の始祖カラヴァッジオだろう。くっきりと明暗を対比させることで、強烈なコントラストを生み出す彼の作品は、まさに光と影の芸術。ストラーロは「Writing with Light(光で描く)」という名言を残しているが、それはまさにカラヴァッジオの筆致そのもの。同じく影響を受けた一人として名前を挙げているフェルメールが“光で包み込む”画家とするなら、カラヴァッジオは“光と影を分離する”画家なのである。
後年ストラーロは、カラヴァッジオの生涯を描いた伝記映画『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』(07)の撮影監督を務めている。カラヴァッジオの絵画のような絵作りを追求してきた彼にとって、本人を描いた作品を手がけることは本望だったに違いない。