© 1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited. All rights reserved.
『ディープ・ブルー』サミュエル・L・ジャクソンの衝撃的かつ最高なシーンはいかにして生まれたか ※注!ネタバレ含みます。
サミュエルのために創り出された特別な役柄
オファーを断られても、ハーリン監督は諦めなかった。ここで通常ならば「出番や見せ場を増やす」という方向で役柄に肉付けしていくのが一般的だろう。だがここでハーリンが採ったのは一世一代の大博打のような起用法だ。
「すごいアイディアを思い付いたよ!とにかく予想不可能でショッキングなシーンがあるんだ!」
こうやって新たに提案したのが、大富豪にして冒険家のラッセル・フランクリンという役柄だ。海上研究所のスポンサーでありながら、彼自身、これまで幾度も生命のピンチを乗り越えてきた、知識と経験を伴った猛者。たとえクルーが危険と恐怖のどん底に突き落とされても、彼さえいれば、皆を叱咤激励し力強く導いてくれるはず、である。
サミュエルはこの役柄と最大の見せ場に魅了され、出演を快諾した。のちに「これまでいろんな役を演じてきたが、こんなのは初めてだった」と述懐しているほどだ。
『ディープ・ブルー』© 1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited. All rights reserved.
実際に見てもらえれば一番早いのだが、肝心の名場面には作り手にとって「自分の肉を切らせて、その代償に観客のハートを刺す」ような側面がある。
皆がピンチに見舞われる中、サミュエルが大演説(*1)をぶちかますこのシーンは、誰が見てもあくびが出るほど感傷的で、正直ゲンナリさせられる。演技の仰々しさ、演出のチグハグさを感じる観客も少なくないだろう。我々はイライラを募らせながら思う。
「ああもう、鬱陶しい!早く引っ込んでくれないかなあ!」
すると、次の瞬間、見事なまでにその願いが叶ってしまうわけだから、こちらにしてみれば本当に、口を開けたままポカンである。
レニー・ハーリン曰く、映画館の上映では決まってこの場面で最も大きな悲鳴が起こっていたとか。観客にしてみれば、ただ単にびっくりさせられるだけでなく、自分の心が完全に見透かされ、その上、サメの共犯者に仕立て上げられてしまったかのような「やられた!」感がこみ上げる場面と言えるのではないだろうか。