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『ワイルドバンチ』西部開拓時代の神話を破壊した、最後のウェスタン
時代から取り残されようとしている男たちと、西部劇の終焉
サム・ペキンパーが主戦場とした西部劇は、アメリカの精神そのもの。その一方で、女性や黒人の描き方に差別的な表現があったことも確かだ。’40年代、’50年代に隆盛を迎えた西部劇は、やがてウーマンリブや公民権運動の高まりと共に、徐々に衰退していく。マッチョでタフガイであることが美徳とされた時代は、過ぎ去ろうとしていたのだ。
『ワイルドバンチ』には、時代から取り残されようとしている男たちと、西部劇の終焉が重ね合わされている。もちろん、「時代から取り残されようとしている男たち」とはワイルドバンチの面々のみを指しているのではない。サム・ペキンパー自身もだ。筆者は、「大量のアリに囲まれるサソリ」をクローズアップで捉えたこの映画のオープニングが、非常に示唆的だと考えている。元の脚本には書かれていなかったこのシーンは、ある俳優の何気ない一言がキッカケとなって生まれた。
『ワイルドバンチ』(C) 2011 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
「脚本を検討中に、エミリオ・フェルナンデス(マパッチ将軍役)が幼い頃の遊びを思い出した。アリ塚の周りを枝で囲い、その中にサソリを落とす。“バンチどもはそのサソリに似てるな。どのみち食われちまうのさ”と」(映画『サム・ペキンパー 情熱と美学』よりサム・ペキンパーのコメントを引用)
時代から取り残されようとしていることに最も敏感だったのは、おそらくサム・ペキンパー本人ではなかったか。このオープニングは、『ワイルドバンチ』というテーマの暗喩であると同時に、自分自身の埋葬の意味も込められているような気がしてならない。血と暴力で塗りたくられたこの作品には、えも言われぬ哀感が滲み出ている。
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
『ワイルドバンチ』
ディレクターズカットDVD特別版 ¥1,572(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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