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『ワイルドバンチ』西部開拓時代の神話を破壊した、最後のウェスタン
映画のダイナミズムを最大限までに発揮させる編集術
サム・ペキンパーは、暴力が何たるかをスクリーンにはっきりと刻印しようとした。彼は「人間の動物的な性質(=暴力)を認めないことは、間違っている」としたうえで、こんなコメントも残している。
「現代の観客に暴力をリアルに伝えるには、彼らの鼻を明かす必要がある。俺たちは毎日テレビで戦争を見て、人が本当に死ぬのを見ているが、それが現実とは思えない。(中略)俺たちはメディアによって麻酔をかけられているんだ。俺がしていることは、人々に本当の姿を見せることだ。ありのままを見せるのではなく、それを高めたり、様式化したりしてね」(サム・ペキンパーへのインタビューより引用)
ここで重要なのは、「様式化」というキーワードだろう。徹底したリアリズムを推し進めたドキュメンタル・タッチではなく、映画のダイナミズムを最大限までに発揮させるための作劇術。彼はそこにこだわった。
『ワイルドバンチ』(C) 2011 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
象徴的なのは、編集。この作品では、メインとなる銃撃戦を複数台のカメラで撮影している。しかも24フレーム/秒、30フレーム/秒、60フレーム/秒、90フレーム/秒、120フレーム/秒と、全て異なるフィルムレートでセッティング。「異なるアングル」と「異なる速度」を有機的に編集することで、これまでにないパワフルな表現を獲得したのだ。
『ワイルドバンチ』はのべ1,288台のカメラを使って、10万1000メートルぶんのフィルムが撮影された。編集者のルー・ロンバードとペキンパーは、6ヵ月間編集室にこもってコツコツと作業を行う。カット数は約3,600(当時のカット数としてはもちろん過去最多)、中には3〜4コマのサブリミナルに近いカットもあったという。「死のバレエ」とも称された、あまりにも有名なクライマックスの銃撃シーンは、5分間のアクションにおよそ325カット。平均すると、何と1カットあたり1秒弱である。
特に筆者が個人的に興味深く感じたのが、フラッシュバックの編集。パイクが元相棒ソーントンの逮捕を回想するシーンがあるのだが、回想→現在(ソーントン)→回想→パイク(現在)→回想→現在(ソーントン)→回想→パイク(現在)→回想→現在(ソーントン)→パイク(現在)と、めまぐるしく時制が変化するのだ(しかも数秒単位で)。最近ではまずお目にかかれないエディット感覚。脱帽です。