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『ワイルドバンチ』西部開拓時代の神話を破壊した、最後のウェスタン
ペキンパー節が炸裂した撮影現場
この映画でも、ペキンパーの人使いの荒さは変わらなかった。スタッフやエキストラが少しでもミスをすれば、即解雇。相手が家庭を持っていようがいまいが気にしない。全ては映画のために。当然、現場では摩擦が生じる。
主演のウィリアム・ホールデンは、ペキンパーがこれ以上スタッフを口汚く罵り続けるなら、セットから出て行くと脅す。ダッチ役のアーネスト・ボーグナインやソーントン役のロバート・ライアンもそれに同調し、「監督をぶん殴る!」と息巻いていた。ペキンパーという“絶対悪”に対して、俳優たちが一致団結。いつの間にか、彼ら自身が本当のワイルドバンチ(無法者の集団)になっていた。これもペキンパーの演出上の計算だとしたら物凄いことだが、たぶん違うでしょう。
ペキンパーは、そんなことでヘコたれるような人物ではない。彼は最後までペキンパー節を全うした。例えば彼は、効果音の銃声に満足ができなかった。それまでワーナー・ブラザースが製作する西部劇では、武器の種類に関係なく銃声はすべて同じ音だったのだ。ペキンパーは突然本物のリボルバーを手にとって、近くの壁に向かって発砲、「これが俺の求める効果だ!」と叫んだという。クレイジー!
『ワイルドバンチ』(C) 2011 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
衣装担当のゴードン・T・ドーソンも、ペキンパーに引き摺り回された。本職は脚本家だったのに、なぜかペキンパーに衣装係に任命されてメキシコに連れて行かれることに。350着ものメキシコ軍の軍服を用意したが、実際にはそれをはるかに上回るエキストラが動員されていて、全然足りない。しかも映画の中でメキシコ兵たちは何度も撃たれたり、吹き飛ばされたりして、すぐに衣装をダメにしてしまう。ドーソンのチームは、24時間体制で衣装のクリーニングと修理を行うハメになった。
現場は当然メチャクチャだ。アーネスト・ボーグナインのインタビューによれば、撮影には実弾が使われたこともあったという(!!!)。
「いよいよ撮影初日を迎え、アクションの合図とともに、ヒューン、ビューン(銃が行き交う音のモノマネ)。いきなりたまげたの何の。銃撃シーンでメキシコ人が実弾をぶっ放しやがった。アワ食って止めたさ。“そこまでだ、撃つな!”。連中が使っているのは実弾だと説明した。疑うので確かめさせたら本物だった。しょっぱなからその調子だ」(映画『サム・ペキンパー 情熱と美学』アーネスト・ボーグナインのインタビューより引用)