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『ワイルドバンチ』西部開拓時代の神話を破壊した、最後のウェスタン

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『ワイルドバンチ』西部開拓時代の神話を破壊した、最後のウェスタン

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ヒロイズムとは無縁、血と暴力に彩られた西部劇



 トラブルメーカーの烙印を押されてしまったサム・ペキンパーは、映画界から干されてしまう時期があった。仕事どころか、撮影所にも出禁となってしまったのだ。彼は当時のことをこんな風に回想している。


 「不誠実で人をだまし、盗みまでする連中が私を追放した。男の世界の正義は絶対だ。約束を破られたら毅然と立ち上がり、闘うのみさ」(映画『サム・ペキンパー 情熱と美学』(05)よりサム・ペキンパーのコメントを引用)


 「男の世界の正義は絶対だ」という表現が、いかにもペキンパーっぽい。彼はくすぶることなく、テレビに仕事の場を移した。表現の場が新しいメディアになろうと、唯我独尊な演出スタイルは変わらない。『ヌーン・ワイン』(66)という作品では、『風と共に去りぬ』のメラニー役で知られる大女優オリヴィア・デ・ハヴィランドを徹底的にいじめ抜いた、というエピソードも伝わっている。「ヘボ役者め!女優だと?聞いて呆れる!」と罵倒することで、大味な芝居しかできない彼女から、本物のリアクションを引き出そうとしたのだ。


 テレビでの仕事は、関係者から高く評価された。4年間の雌伏の時を経て、彼は再び映画の世界に舞い戻ることになる。その記念すべき作品こそ、『ワイルドバンチ』(69)だった。


『ワイルドバンチ』予告


 本作は、ハリウッドのスタントマンで"マルボロマン"の異名で知られるロイ・N・シックナーによるオリジナル・ストーリー。メキシコ文化に精通した脚本家ウォロン・グリーンと共に、数年をかけて脚本を練りこんでいった。やっと完成したシナリオを片手に、意気軒昂に映画会社へ売り込みをかけるものの、あまりにも血と暴力に彩られた内容に、どこのスタジオも嫌悪感を示したという。そんななか、俳優のリー・マーヴィンに薦められて脚本を読んだサム・ペキンパーが映画化を決断。自ら脚本に手を入れ、より血と暴力に彩られた西部劇が完成した。


 『ワイルドバンチ』は、オープニングから阿鼻叫喚の銃撃戦で幕を開ける。舞台は1913年のテキサス。パイク(ウィリアム・ホールデン)率いる強盗団が、銀貨を隠し持った鉄道事務所に押し入るが、鉄道会社に雇われたソーントン(ロバート・ライアン)が賞金稼ぎを引き連れて待ち伏せし、殺し合いが始まるのだ。


 この映画には正義も悪もない。倫理観のカケラもない。強盗団は人を盾にして逃げようとするし、賞金稼ぎは丸腰の傍観者を撃ち殺す。ここで描かれるのは圧倒的な暴力、ただそれだけ。それまでの西部劇に見られた叙情性やヒロイズムは、完全に雲散霧消していた。ジョン・フォードと組んで、『駅馬車』(39)や『アパッチ砦』(48)などの名作に主演してきたジョン・ウェインが、「この映画が西部開拓時代の神話を破壊した」と訴えた所以である。





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