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『ダークナイト』ノーランの現実主義的アプローチをさらに推し進めたIMAX撮影

(c)Photofest / Getty Images

『ダークナイト』ノーランの現実主義的アプローチをさらに推し進めたIMAX撮影

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リアリズム志向の『ダークナイト』がさらに現実味を帯びて迫ってくる



 夜の香港でバットマンがビルの間を飛び回る場面は、IMAX撮影の効果が強く感じられるハイライトのひとつだろう。超高層ビルの上に立つブルース・ウェイン=バットマンが躊躇することなく飛び降りるショットは、香港の夜景が縦に大きく広がっていることで、VRにも負けない生々しさと臨場感を味わうことができる。


 ブルース・ウェインは、悪に立ち向かうことに取り憑かれた、スーパーパワーを持ち合わせていない普通の人間である。そして、IMAX撮影のおかげで常識ではありえない状況がリアルに感じられるからこそ、ブルースの危険に対する無感覚さが際立ち、彼の偏執的な精神状態により一層近づける気がした。ただ香港のシーンは、高所恐怖症の人には恐ろしい体験になるかも知れないことは言い添えておきたい。


 またノーランは、IMAX撮影を「静かなシーン」に活かすことに興味があったと語っているが、ジョーカーが警察署から脱走し、パトカーで逃げる展開から、焼け跡に立ち尽くすバットマン、レイチェルの手紙を読むアルフレッドなどの一連のモンタージュがIMAX撮影されているのが印象的だった。本作の中でももっとも絶望的な瞬間(ジョーカーを応援してる人は別だが)に、感情を押し殺すことしかできないブルースの心情が、ただそこに立っているだけの映像から伝わってくるのである(似た効果が感じられるシーンは終盤にもある)。



『ダークナイト』(C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 『ダークナイト』は、数あるスーパーヒーロー映画の中でも飛び抜けて現実主義的なアプローチが取られている。架空の街ゴッサムシティとして、ほぼ現実そのままのシカゴの街が映し出され、劇中で起きる犯罪も、登場人物たちの心情も、映像の質感も、まるで現実と地続きのように描写されている。


 おそらく本作におけるIMAX撮影は、その現実主義的アプローチをさらに一歩推し進めようという試みだったのではないか。繰り返しになるが、IMAXフォーマットでない従来の『ダークナイト』は、全編が緻密にデザインされた素晴らしい作品だ。そしてIMAX版にはノーランのチャレンジ精神がより反映されており、これまで観てきた『ダークナイト』とは異なる作品になっている。二本の『ダークナイト』を楽しむという贅沢な機会を逃す手はないと思うので、みなさんもノーランの掌に乗ってみてはいかがだろうか?




文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。 



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作品情報を見る



『ダークナイト』

2020年7月10日(金)全国IMAX/4Dにて上映

配給:ワーナー・ブラザース映画

上映時間:152分

製作:2008年  原題:The Dark Knight

(C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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