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『恐るべき子供たち』メルヴィル=コクトーによる鉱石の雪玉は、鈍い光を放ち続ける

©1950 Carole Weisweiller (all rights reserved) Restauration in 4K in 2020 . ReallyLikeFilms 

『恐るべき子供たち』メルヴィル=コクトーによる鉱石の雪玉は、鈍い光を放ち続ける

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ニコール・ステファーヌ



 『恐るべき子供たち』の演技が称賛されたニコール・ステファーヌは、『顔のない眼』(60)のジョルジュ・フランジュ監督による極めて美しい短編『キューリー夫妻』(56)等、いくつかの作品へ出演した後、プロデュース業に活躍の場を移す。プロデューサーとして、マルグリット・デュラスや、公私に渡るパートナーだったスーザン・ソンタグの映画作品を手掛けたことを含め、近年再評価され、2020年にはクレテイユ国際女性映画祭でレトロスペクティブが開かれている。


 ニコール・ステファーヌがプロデュースしたフレデリック・ロシフ監督によるスペインの内戦を描いたドキュメンタリー映画『Mourir à Madrid』(63)は、各国から集めた膨大なアーカイブ映像を、まさにパブロ・ピカソが描いた「ゲルニカ」の地獄絵図のように紡いでいく恐るべき作品だ。そしてこの作品と呼応するのが、同じくニコール・ステファーヌがプロデュースした、スーザン・ソンタグによる監督作品『Promised Lands』(74)だ。前者はスペイン、後者はイスラエルを舞台にしているが、この二作品は、「地獄の真っ只中の世界」と「地獄以後の世界(これもまた地獄)」を描いているという続編的要素があるのみならず、馬や牛の群れを美しいロングショットで捉えているという点からも、どこか参照性を持っている。



『恐るべき子供たち』©1950 Carole Weisweiller (all rights reserved) Restauration in 4K in 2020 . ReallyLikeFilms 


 十代で自由フランス軍に参加するために、スペインで投獄された経験もあるニコール・ステファーヌ。『海の沈黙』で、ドイツ軍将校を前に無言を貫く姪を演じたニコール・ステファーヌによる固い抵抗の意思の表情は、彼女のこういった活動に通じるものがある。


 ニコール・ステファーヌは『海の沈黙』と『恐るべき子供たち』で、陰と陽といえるくらい真逆の役柄を演じているが、だからこそクローズアップになった際の、固い意志の表情は、映画の行く先を決定づける強度を帯びている。


 ジャン=ピエール・メルヴィルは、姉弟がじゃれ合っている内に、母親の死を発見するシーンで、ニコール・ステファーヌのクローズアップを捉える。一連の無邪気な流れの中で、唐突に感情の空白が生まれる。そのクローズアップは、突如静止画が編集で挿入されたかのような、時間を止めてしまう不思議な感覚に溢れている。感情の流れを切断するクローズアップ。そして、登場人物の呼吸、鼓動を一時停止にするクローズアップだ。





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