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『プライベート・ライアン』革命を起こし続けるスピルバーグの映画作家としての矜持
2018.03.27
戦場に鮮烈な意味を残す“血”の演出
こうして観客の視覚的・体感的コントロールのために写実性を高めたスピルバーグ作品だが、その極みとも思われている『プライベート・ライアン』の「オマハ・ビーチの戦い」には、作為的かつ映画的な演出が存在する。それは劇中にて展開される「血の色」だ。
本作ではフィルムの褪色した感じを出すため、ENRという処理が画面にほどこされている。ENRとはフィルムの銀要素を残し、鉛のように重たい映像の質感を創り出す「銀残し現像」のことで、時代がかった雰囲気を表現できる。
『プライベート・ライアン』TM & (C)1998 PARAMOUNT PICTURES and DREAMWORKS LLC and AMBLIN ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED.TM & (C) 2013 Paramount Pictures and DW Studios L.L.C. and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.
しかしENRをおこなうと、スクリーンに映る血の色がブラウンになってしまうのだ。そこでスピルバーグと撮影監督のヤヌス・カミンスキーは処理時に血の色の鮮明さを出すよう、撮影時に彩度をコントロールした血のりを用い、現像で赤くなるよう手がけている。そのため画面は褪色した雰囲気を醸しながらも、血の色だけは赤くインパクトを放つのだ。これは『シンドラーのリスト』(93)での劇中、ナチスによるゲットー解体のシーンで少女のコートだけが赤く染められた演出に相当するものといえる。
このリアリティの中にも映画的な演出を際立たせるスピルバーグのアプローチには、自作をただのライド型映画にさせまいとする、「映画作家」としての抵抗や矜持を感じることができるだろう。