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『ラストナイト・イン・ソーホー』ノスタルジーの暗部をえぐる、エドガー・ライト渾身の青春ホラー

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『ラストナイト・イン・ソーホー』ノスタルジーの暗部をえぐる、エドガー・ライト渾身の青春ホラー

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ジャンルの魔術師、エドガー・ライトの作劇術



 エロイーズと同じく60年代のロンドンに惹かれていたエドガー・ライトは、これまでの作品と同じく、作品を通じて映画や音楽の歴史にも敬意を表している。映画の序盤、エロイーズが大きなヘッドホンを付けて列車に乗る姿や、下宿先でレコードに針を落とす様子は、監督自身の投影を感じさせもするところだ。


 たとえば、ライトは本作を手がけるにあたり、ロマン・ポランスキー監督『反撥』(65)やニコラス・ローグ監督『赤い影』(73)を参考にしたことを明かしており、ほかにも『サスペリア』(77)などの影響も十分に見て取れる。しかしライトが試みたのは、過去のホラー/スリラーを現代の想像力で甦らせるようなことではない。これまで、あらゆるジャンルを越境しながら物語を描き続けてきたライトは、60年代のソーホーがはらんでいた多面性を、さまざまなジャンルの多面性によって炙り出した。



『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED


 先に、本作が過去のエドガー・ライト作品のいずれとも異なり、いずれとも同じジャンルの映画だと記したのはそれゆえだ。『ラストナイト・イン・ソーホー』はホラーでありスリラーであり、また青春映画であるが、恋愛映画、サスペンス、アクション、そしてゾンビ映画でさえあると言っていい。すなわち、『ショーン・オブ・ザ・デッド』を撮ったフィルムメーカーとしての痕跡も本作には確かに見受けられるだろう。


 ジャンルを横断しながら街を駆けるエロイーズにとって、そこはほとんど迷宮さながらだ。建物の中で、あるいは大通りで、彼女は何度も出口を求めて走り回るが、なかなか出口は見つからない。そこは歴史という迷宮であり、多面的で実体のつかめない怪物のよう。エロイーズは迷宮に囚われ、抜け出すこともできないまま、その奥底へ潜りつづけるのだ。何度も画面外から突っ込んでくる自動車は、この街そのものが悪夢的であることを仄めかしてもいよう。





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