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『ラストナイト・イン・ソーホー』ノスタルジーの暗部をえぐる、エドガー・ライト渾身の青春ホラー
2021.12.11
ノスタルジーの光と影
現在と過去、現実と夢、エロイーズとサンディ……。時間を行き来し、虚構性を操作し、人物の視点を何度も往復しながら、物語は少しずつソーホーの真実に迫っていく。ライトとクリスティ・ウィルソン=ケアンズによる脚本は真摯な手つきで主題を扱いつつ、ミステリーとしても緻密に構築されて鮮やかだ。
『ラストナイト・イン・ソーホー』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
本作はエロイーズという“光”とサンディという“影”を通じて、あらゆる二分法の両側から、ロンドン・ソーホーの街を、そこで起きた事件を見つめ、そこに横たわる残酷な事実を暴き出す。それは、「あの頃は良かった」という郷愁の影に葬られてしまいかねない都市の暗部だ。60年代のロンドンを愛するライトは、その愛情ゆえにこそ、その影に光を当て、時代や都市のノスタルジーを問い直したのである。
ただしエドガー・ライトは、それでも1960年代がどのような時代で、ロンドンのソーホーがどのような街だったのか、その結論を出すことはしていない。時代や都市を素朴に理解せず、ノスタルジーにもハードな現実にも軸足を置かず、その多面性を受け止め、しかし物語と主題にはひとつの回答を導き出すところに作り手の強さが垣間見られる。
多面的な都市を多面的に撮り、少女のピュアネスをありのままに切り取ることで作品の屋台骨を支えたのは、撮影監督のチョン・ジョンフン。『オールド・ボーイ』(03)『お嬢さん』(16)などのパク・チャヌク監督作品で知られ、近年、ハリウッドに活躍の場を移した。カフェ・ド・パリにおいて、エロイーズとサンディが鏡によってふたつの世界に分かれ、ときにひとつになるシーンは本作の白眉。エロイーズが初めて60年代の夢を見るくだりは、『ラストナイト・イン・ソーホー』という作品そのものを象徴するような奇跡的な名シーンだ。
文:稲垣貴俊
ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。
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『ラストナイト・イン・ソーホー』
12月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
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