ドキュメンタリー映画『BELUSHI ベルーシ』 とあわせて知っておきたい”もう一つの”ベルーシ伝説

スピルバーグを魅了しつつも、怒らせた男

　もう一つ触れておきたいのは、ベルーシとスピルバーグとの関係だ。もともとスピルバーグはSNLの大ファンで、ニューヨークを訪れた際は彼らが生放送後の打ち上げを行うレストランに立ち寄ることも多かったとか。

　そこで出会ったベルーシに、彼は「第二次大戦のコメディを作ろうと思ってるんだ」と打ち明けた。映画『1941』のことである。最初は彼に日本人の潜水艦艦長の役を演じてもらおうと思っていたようで、これはひとえにベルーシがSNLで演じた「サムライのネタ」が評判となっていたからだろう。もっともこの役は三船敏郎が演じることになり、ベルーシは戦闘機の操縦士役を任されるのだが。

　スピルバーグは、ベルーシが破天荒な大学生を怪演した『アニマル・ハウス』が大好きだったというし、またベルーシは、スピルバーグの『未知との遭遇』（77）を愛してやまなかった。両者が何度か会合を持つ中で、ある日、ベルーシは何の了解もなくエイクロイドを同伴させ、スピルバーグに「軍曹役だ」と紹介したという。使ってやってくれというのである。普段なら逆鱗に触れそうなところだが、そこはスピルバーグの愛情というべきか、彼はすんなりOKしてくれた。おそらく、いろいろ問題を抱えるベルーシのお目付役になってくれるはずと期待されたのだろう。

『1941』予告

　だが、撮影が始まるとベルーシは不調が続いた。ある時はセリフをうろ覚えで、集中力が続かず、ごく簡単なシーンで何度もテイクを費やした。明らかにドラッグの影響である。また、ある時は撮影現場になかなか現れず、150人ものスタッフを1時間半も待たせた。スピルバーグもこの時ばかりは堪忍袋の緒が切れ、トレーラーに飛び込んで「ちゃんとやれ！」と怒鳴り散らしたとか。

　しかし、こんな事態が起こってもなお、スピルバーグはベルーシのことを気にかけ続けた。最初に『Oh！ベルーシ絶体絶命』(81)の脚本を読んで気に入った時も、スピルバーグは「何か一緒にやれるのではないか」と思い、ベルーシに脚本を送ったそう。だが、この企画の会合でも彼の不可解な言動は目立ち、皆を困惑させることに。最終的にスピルバーグは”製作総指揮”として名前だけ残して、事実上、本作から手を引いてしまった。

　しばらくして訃報に触れた際、スピルバーグは大きなショックを受けたという。

みんなベルーシのことが好きだった