2021.12.17
もはや普通のコメディは撮らない
90年代から人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の脚本・演出を務めていたマッケイは、『俺たちニュースキャスター』で長編映画デビュー。俳優・コメディアンのウィル・フェレルとタッグを組み、『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-』(08)や『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(10)をはじめとする荒唐無稽かつ不謹慎なコメディを(ときにはプロデューサーとして)多数送り出してきた。
しかし『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)から、マッケイの作風には大きな変化が生じている。同作では不動産バブルとリーマン・ショックにまつわる実話をブラック・コメディとして告発し、続く『バイス』(18)ではジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーの半生に迫った。
いまや懐かしのアメリカン・コメディから、シリアスかつ軽やかな実話映画へ。マッケイの路線変更は、2019年、長年タッグを組んできたフェレルとは別の道を進むことを選んだ点にも表れている。ふたりの製作会社ゲイリー・サンチェス・プロダクションズは、現在進行中の企画が完了した時点で役目を終えることが決定済み。『ドント・ルック・アップ』は、のちにマッケイが設立した製作会社ハイパーオブジェクト・インダストリーズによる初めての長編映画だ。
『ドント・ルック・アップ』NIKO TAVERNISE/NETFLIX
自らの変化について、マッケイは「見かけ倒しの白人男をテーマにしたコメディをウィルと作り続けてきたし、それが本当に面白かったんですが、文化の破壊に気づいてからは笑えなくなりました。金融危機、極右の台頭、気候変動、経済格差の拡大。昔ながらのコメディを作るのは理にかなわなくなった」と語っている。その後、マッケイがコメディ映画ではなく、コメディの手法を用いて現代のイシューに取り組んでいること――プロデューサーを務めているTVドラマ「サクセッション」(18~)も同じく――を鑑みれば、現在の問題意識は明白だろう。
『ドント・ルック・アップ』は、そうした経緯の中、突如としてマッケイのフィルモグラフィに甦ったコメディ映画だ。しかし、もはやマッケイには、以前のようなコメディを撮る気はさらさらなかったのだろう。製作・原案に起用したデヴィッド・シロタは筋金入りのジャーナリストにして、2020年の米大統領選ではバーニー・サンダースのブレーンとして活躍した人物である。