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『マトリックス レザレクションズ』歴史的シリーズがたどり着いた、極私的な“答え” ※注!ネタバレ含みます。

©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

『マトリックス レザレクションズ』歴史的シリーズがたどり着いた、極私的な“答え” ※注!ネタバレ含みます。

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『マトリックス』は愛の物語へと収斂していく



 ここまでに述べたような“仕込み”を経て、『マトリックス レザレクションズ』が導き出したシリーズの“答え”とは何か。それは、「愛の物語」であるということ。


 『マトリックス』シリーズではこれまでにも、「トリニティーが愛した人物が救世主である」「トリニティーやモーフィアスの信じる心が、ネオを救世主に“する”」といったテーマであったり、「プログラムが愛情を得る」といったシーンが描かれてきた。シリーズのキーワードである“選択”においても、愛はネオの判断を左右する要因として登場する。


 しかし、『マトリックス』という作品自体は、やはり「人間VS機械」や「我々が生きている現実は実は仮想現実だった」という設定のインパクトが強く、鮮烈かつ先鋭的なビジュアルも相まって、壮大なSFトリロジーとして君臨してきた。もちろん「ラブストーリー」と「SF」はかち合うものではないが、我々の中にある『マトリックス』は何か?というイメージは個々に違うとはいえ、やはり後者に傾くように感じる。特に――ここで冒頭に述べた“時代”が関係してくるのだが――『マトリックス』が生まれたのは、1999年だ。



『マトリックス レザレクションズ』©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.


 インターネットや携帯電話が急速に普及したのが1995年ごろと考えると、『マトリックス』が当時の人々に与えた衝撃は、すさまじかったに違いない。昨今流行りのメタバースではないが、ある種の「予言の書」として受け入れられた部分もあっただろう。当然ながら、ラナ・ウォシャウスキー監督自身も、そのことは十二分に理解しているはず。だからこそ、「愛の物語」という結論を導き出すために、わざわざコンピュータゲームの形を借りて『マトリックス』の功罪を「劇中で」描いたのだ。『マトリックス』が一時代を築いたSF作品として民衆に受け取られている世界で、愛のための闘いを展開していくということ。逆算してみていくと、あらゆる要素が腑に落ちてくる。


 『マトリックス レザレクションズ』で描かれるのは、いわば救世主を必要としなくなった世界。ネオによって救われた世界は完璧とはいえないまでも機能し、彼自身は「現代の救世主」ではなく「過去の偉人」として語られるようになった。役目を終えた世界でネオは、恐らく初めて、自らのために動く“選択”をする。それは、愛するトリニティーと再び会い、今度こそ彼女と幸せになるということ。しかしそこにアナリスト(ニール・パトリック・ハリス)という敵が立ちはだかり、さらなるバトルが勃発する。


 また、秀逸なのは“選択”というテーマをラブストーリーへと転用していること。マトリックス内のトリニティー/ティファニーには家族がおり、ネオは思い悩む。現在のトリニティーにとって、「幸せ」はどちらにあるのか? ネオを選び現実に帰ってくる場合、家族とはもう会えなくなる。これまでに現実よりもマトリックス内にとどまることを望んだ人々(彼らは往々にして、裏切り者になってしまった)を知っているネオは、自らの想いだけでトリニティーを連れ去ろうとはしない。最終的な判断を、彼女自身にゆだねることにする。赤いピル/青いピルにも通じる“選択”が、愛の物語に見事に結びついているのだ。


 『マトリックス レザレクションズ』は、「『マトリックス』とは何か?」という問いに対する逡巡を経て、ネオとトリニティーのラブストーリーへと流れ込んでいく。いわば、永遠の愛を誓いあうも本懐を遂げられなかったネオとトリニティーのために用意されたボーナスステージであり、そこには「今度こそ、幸せにしたい」という作り手(生みの親)の祈りにも似た願いが色濃く反映されている。現実では、亡くなった人は生き返らない。だが物語の中では、復活させることができる――。最大の悲しみから生まれたこの物語がたどる道は、これ以外はあり得なかったと思えるほどに、美しい。


 本編終了後に浮かび上がるのは、ラナ・ウォシャウスキー監督が両親に宛てたメッセージ。そこに、22年に及ぶ『マトリックス』を締めくくる“コード”が記されている。



文:SYO 

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



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『マトリックス レザレクションズ』

12月17日(金)全国公開

©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

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