2022.01.15
淡白な主人公と地味なアクション
監獄と化したニューヨークへと潜入したスネークは、大統領を救出するため街をさまようことになるが、彼のふるまい、行動はアクション映画としては、いささか淡白で物足りない。注意して観ると、劇中のスネークは基本的には逃げ回っていることが多く、結局は敵にあっさりと捕まってしまうし、ラスボスを倒すのも彼ではない(金網デスマッチで大男と釘バットで戦うのが最大のアクションだ)。
しかし、そんな事は全く気にならないほど『ニューヨーク1997』は面白い。実は本作に限らずカーペンター作品はいつも淡々として控え目だ。過剰な演出をおさえ、物語の本質を最短距離で観客に届けることにフォーカスした語り口こそが、カーペンターの哲学だからだ。「淡白な演出」だからこそ、彼の映画は人々をひきつけてやまない。
『ニューヨーク1997』© 1981 STUDIOCANAL SAS - All Rights Reserved.
現代の映画ファンは、派手な爆発やカメラワーク、ギミック、心震わせる音楽に慣れきってしまっている。だが本来の映画の姿とは、カーペンターが指し示すような、物語をスムーズに的確に語ることを第一義とするものではないだろうか。だからカーペンターは世の流行や、映画会社の意向、ひいては観客にもおもねらず、自らの価値観に準じて映画を撮り続けてきた。
「私は頼まれれば素直になんでも従う人間だ。場面の変更にも応じるし、カットだってする。だが命令されたらテコでも動かない。無理強いされるのは我慢できない」*
その姿勢は、どんな権威にも尻尾をふらない劇中のスネークそのものだ。
作者の生き様が主人公に憑依することはままあることだが、スネーク・プリスキンは映画監督ジョン・カーペンターの反骨の魂を注入されたからこそ、あそこまで魅力的なキャラクターになりえたに違いない。『ニューヨーク1997』はカーペンターの映画哲学と、その哲学を体現する主人公が出会ったことで傑作となり得たのだ。
*:文中のコメントは『ザ・ディレクターズ ジョン・カーペンター』(販売元 :東北新社)から引用
文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
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