2022.01.19
アメリカ映画の引用に溢れた、シネフィル的作劇術
ベルトルッチとアルジェントはセルジオ・レオーネの邸宅に集い、数カ月にわたってストーリーの開発を行った。若い2人は優れた映画作家であり、同時に博覧強記な映画マニア。西部劇の古典を片っ端から観まくり、脳内に蓄積し、気になったプロットや好きなシーンを列挙して脚本に当てはめていくという、いかにもシネフィルっぽい方法がとられた。
例えば、冒頭の列車を待つ3人の男たちという設定は、明らかに『真昼の決闘』(52)だろう。マクベイン一家がフランク(ヘンリー・フォンダ)一味によって虐殺されるシーンは、『捜索者』(56)。あえて劇伴を流さず、虫の声や茂みのざわめきといった自然音のみで構成する演出に、共通点が認められる。
鉄道建設というプロットは『アイアン・ホース』(24)だし、フランクとハーモニカ(チャールズ・ブロンソン)の最後の決闘は、ベルトルッチが大ファンだという『ガン・ファイター』(61)にインスパイアされている。アメリカ映画の引用に溢れた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は、西部劇へのオマージュであり、愛に溢れたラブレターなのだ。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』予告
「こうしてわれわれ三人は集い、共に夢を見始めた。(中略)大好きだったアメリカ映画をあれこれ引用しながらね。ベルトルッチと私との間のテニスの試合のようだったよ。アルジェントは観客として二人の間のラリーを見つめていた。彼は時々、役に立つ助言をしてくれたし、なんと言っても一緒にいて気持ちのいい男だった」(セルジオ・レオーネへのインタビューより引用**)
レオーネを深く敬愛する2人の若者は、彼の言葉に耳を傾け、情熱を込めて自分の意見をぶつける。特にベルトルッチの貢献は大きかった。完全に男の世界だった西部劇の伝統を打ち破るべく、女性を物語の中心に置くことを発案したのだ。レオーネは最初このアイディアに乗り気ではなかったが、最終的にベルトルッチの意見を採用。かくして本作は、女一人で西部で生きて行こうとするジル(クラウディア・カルディナーレ)を軸にして、男たちの裏切りと思惑が交錯する一大叙事詩に仕上がった。3人の叡智が結集された第一稿は、436ページにも及んだという。