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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』故きをたずね、新しきを知る。ウェス・アンダーソンが魅せた作家性の再構築

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』故きをたずね、新しきを知る。ウェス・アンダーソンが魅せた作家性の再構築

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インド、日本、フランス…地域に根付いた文化への愛情



 『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、20世紀フランスを舞台にした物語。アメリカの新聞社のフランス支社が発行する雑誌「フレンチ・ディスパッチ」誌が、逝去した編集長の遺言によって廃刊することに。最終号に掲載される記事の舞台裏や執筆者たちの想いが、描かれていく。


 まずは、これまでのウェス・アンダーソン監督作品にも通じる要素を見ていこう。大きな特徴でいうと、時代と舞台だ。


ダージリン急行』…舞台:インド。時代:現代


ムーンライズ・キングダム』…舞台:アメリカの島。時代:1960年代


グランド・ブダペスト・ホテル』…舞台:ヨーロッパの架空の国。時代:1932年、1968年、1985年


犬ヶ島』…舞台:日本。時代:不明(架空)


『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』…舞台:フランス。時代:20世紀


 といった具合になっており、時代モノが多い。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)も『ダージリン急行』も現代劇ではあれど、アンティーク調の世界観になっているため、ウェス監督の作品には一貫して「過去を描く」懐かしい雰囲気が漂っている。



『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.


 また、舞台においても作品ごとに地域を変えてきた印象だ。インド、アメリカ(ニューイングランド)、ヨーロッパ(チェコやスイス)、日本、フランス、そして次回作『Asteroid City』はスペイン。各国を物語のメインに据えながら、自らの画的な美意識を融合させていく。同時に、それぞれの国の“文化”――ウェス監督自身が影響を受けた映画や文学の要素を入れ込んでいく傾向が強い。


 その証拠に、時代モノといっても、リアル志向かといえばそうではない。我々日本人にとっては『犬ヶ島』がわかりやすい例だが、描かれるのはあくまで「ウェス監督のフィルターを通した世界」だ。比重が割かれるのは、あくまで各国の文化に対する愛情。アート用語でいうところの日本趣味(ジャポニスム)とも通じるスタンスが、ポエティックな世界観の構築につながっていくのであろう。


 『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ではウェス監督史上最多となる約130にも及ぶセット数が建造され、キャストも主要メンバーだけで20人弱とかなり大規模。世界観や人物造形には、当時の記録写真等はもちろんのこと『素晴らしき放浪者』(32) 『赤い風船』(56)『大人は判ってくれない』(59)といった映画の数々や、バンド・デ・シネ(フランスの漫画)等、フランス発祥の文化や1968年に発生した五月危機(学生主体の大規模なストライキ)といった事件が大量に盛り込まれているという。





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