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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』故きをたずね、新しきを知る。ウェス・アンダーソンが魅せた作家性の再構築

(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』故きをたずね、新しきを知る。ウェス・アンダーソンが魅せた作家性の再構築

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色彩の魔術師ウェスの、モノクロという挑戦



 ウェス・アンダーソン監督作品の「時代」と「舞台」について考えていくと、様々な国や地域、時代が描かれていくのは、彼自身が受けた文化的な恩恵に対する感謝を示すため――映画によって文化を保護・継承し、恩返しを行うことが目的である、という予測が立つ。


 『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』においても、「短編のオムニバス映画が撮りたい」「『ニューヨーカー』と出版界に関する物語を作りたい」「フランスを舞台にした映画が撮りたい」といった彼自身の長年の夢が連結してアイデアの基盤になっていったそう。


 ウェス監督は高校生のころから「ニューヨーカー」の熱心な読者であり、フランスで数年間暮らしていた経験も持つ。それらのことがミックスされていった結果、「20世紀のフランスを舞台」に、「アメリカの出版社の海外支社」で、「雑誌にまつわるオムニバスの物語」が展開するに至ったのだ。そしてこの部分において、ウェス監督の新たな挑戦を見ることができる。



『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.


 それは、本作がそのまま雑誌形式になっているということ。「自転車レポーター」「確固たる名作」「宣言書の改訂」「警察署長の食事室」といったエピソードからなる作品だが、これらはそれぞれが雑誌に掲載された記事(とその裏側)であり、「政治面」「文化面」といった各セクションの役割をも果たしている。諸所に「目次」「奥付」的な出版用語も登場し、観客はあたかも最終号を映像として読む(観る)ような感覚になることだろう。


 『犬ヶ島』でも「第何部」のように章立てにする形式は行っていたし、『グランド・ブダペスト・ホテル』では3つ+αの時代をアスペクト比を変えることで描き、章立てに近いアプローチを行っていたが、そこからもう一個新たなフェーズへと到達した印象だ。映像表現においても、アニメーション(バンド・デ・シネ風)やモノクロ映像、凝った字幕、画面分割等々、ギミックが満載。


 特にモノクロは、言ってみれば色彩の魔術師であったウェス監督のアイデンティティを根底から揺るがしかねないアプローチともいえ、なかなかに衝撃的。もちろん彼は過去にモノクロの作品も制作しているものの、この規模の映画においてかつここまでのパートをモノクロで描くということは、大きな挑戦だったのではないか。それは我々観客においても同様で、「色のないウェス・アンダーソン監督の作品」と聞いたとき、従来のイメージからはおよそ想像もできない。


 ただ同時に、たとえ“最大の武器”である色彩を取り除いたとしても、ウェス・アンダーソン監督の作品だと認識する、という発見もそこにはある。画面の質感や人物、小道具の配置、セットデザイン……。要素を一つ抜いたとしても、ウェス監督はウェス監督なのだ。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、逆説的にウェス・アンダーソン監督の揺るがぬ作家性を証明した意義深い一作となった。





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