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『ウエスト・サイド・ストーリー』名作の復活にあたり、スピルバーグは何を守り、何をアップデートしたのか
2022.02.11
微妙に変わった曲順と、歌う役の重要な変更
基本的にストーリーもオリジナルどおりに進んでいくが、ミュージカルとしての曲順は今回も微妙に変更された。「今回も」というのは、ブロードウェイ初演版から、1961年の映画で、すでに入れ替わっているからだ。ストーリーの軸となる、プエルトリコ系のシャークスと、ポーランド系のジェッツの「決闘」を分岐点にすると、舞台版では決闘前の「クール」と決闘後の「クラプキ巡査どの」が、1961年の映画では、位置が入れ替えられた。今回のスピルバーグ版では、「クラプキ」は決闘前に変えられたままで、「クール」も同じく決闘前に戻されている。また、トニーがマリアを思って歌う「マリア」→アパートの裏階段でトニーとマリアが歌う「トゥナイト」→翌朝、シャークスの仲間とそのガールフレンドたちが激しく歌い踊る「アメリカ」という舞台版の流れも、今回は忠実に再現。1961年版では「トゥナイト」と「アメリカ」の位置が入れ替えられていたのだ。
『ウエスト・サイド・ストーリー』(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
各ナンバーの順番以外に、曲の演出として最も変わったのは「サムウェア」で、この作品全体のテーマを代弁するナンバーは、舞台版は装置をすべて取り除いたまっさらなステージで展開する、クラシックバレエの一場面のような演出が、1961年版ではマリアの小さな部屋でのトニーとのデュエットと、劇映画らしく変更された。そして今回は、新たに創造されたバレンティーナというキャラクターが歌う。プエルトリコからNYへ来た彼女は、白人男性と結婚し、食料や日用品を売る店を経営。夫に先立たれながらも、人種に分かれて争う若者たちを諌めるという、重要な役どころで、1961年版にも出演したリタ・モレノが切々とこの曲を歌う。
1961年版のアニータ役(シャークスのリーダー、ベルナルドの恋人)でアカデミー賞助演女優賞に輝いたモレノだが、同役で歌の多くのパートが吹き替えられていた。今回はしっかり自分の歌声を残すことができたのだ。モレノが演じるバレンティーナは終盤、アニータと絡むシーンもあり、映画の歴史を振り返ると、この接点は感慨深い。リタ・モレノは2022年の2月現在、90歳。同じように1961年版のメインキャストで、トニーのリチャード・ベイマー(83歳)、ベルナルドのジョージ・チャキリス(87歳)、リフ(ジェッツのリーダー)のラス・タンブリン(87歳)も存命中である。
ブロードウェイ初演から関わってきたクリエイターとしては、作詞を手がけたスティーヴン・ソンドハイムだけが今回の製作期間まで存命で、曲のレコーディングにも参加して、アドバイスを与えた。しかし彼は2021年11月に91歳で逝去。劇場公開まで見届けられなかったことが惜しまれる。