1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ザ・ビートルズ:Get Back
  4. 『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語
『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

PAGES


映画『レット・イット・ビー』から『ザ・ビートルズ:Get Back』へ



 そもそもザ・ビートルズはどうして記録映画の製作に着手していたのだろうか? 60年代に彼らはユナイテッド・アーティストと3本の映画契約を結んでいた。その結果、『ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア! (ア・ハード・デイズ・ナイト)』(64)や『ヘルプ!4人はアイドル』(65)といった映画が作られた。


 そして、『レット・イット・ビー』が、結果的には彼らが出演する3本目の映画となり、前半の撮影はトゥイッケナム・スタジオで行われている。このスタジオは1913年の設立以来、英国最大のスタジオとなっていて、ポランスキー監督の『反撥』(65)、マイケル・ケインの代表作『アルフィー』(66)、『狼男アメリカン』(81)等、多くの映画で使われている。


 ビートルズの他の2本の映画や68年のミュージック・ビデオ「ヘイ・ジュード」もこの撮影所で撮られていて、後者の監督は新人のマイケル・リンゼイ=ホッグだった。その流れで69年1月上旬から彼がビートルズのドキュメンタリーを撮ることになった。


 リンゴ・スターとピーター・セラーズ主演のコメディ『マジック・クリスチャン』(69)の撮影が同じ年の1月下旬から予定されていたので、ビートルズには3週間の猶予しかない。その間、新曲14曲を仕上げる必要がある。最初はテレビ・スペシャルとして企画されていたが、途中で劇場映画へと変更された。また、完成した『レット・イット・ビー』は当初は210分の作品として編集されたが、ジョン・レノンとヨーコ・オノの不在の時に再編集が行われ、ふたりの出演場面が大幅にカットされて、81分のバージョンとなった。


 日本では1970年に有楽町のスバル座で公開されて大ヒットを記録。当時は海外のアーティストの映像を見られる機会はけっして多くなかったため、ファンにとってはすごく貴重な映像に思えたものだ。70年代は上映がたびたび行われていて、「ビートルズ祭り」と称して、『ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!』、『ヘルプ!4人はアイドル』、『レット・イット・ビー』の3本立ての上映も定番だった。海外では酷評も出た『レット・イット・ビー』だが、日本のファンにとっては、彼らのライブを見られる貴重な作品だった(かつて東芝のコマーシャルにこの映画の映像が使われたこともあった)。


 今回の『ザ・ビートルズ:Get Back』に製作に関して、ジャクソンは何よりも<正確さ>を心掛けたという。「50年前のことなので、今となってはポールもリンゴもよく覚えていないところもあるようだ。ただ、すごく正確な描写になっていると思ってくれた。そうだとしたら、私自身の目的は果たされたことになる」(<ワシントン・ポスト>21年11月25日号)


 新曲のためのリハーサル中には、さまざまなことが起きる。ポールとジョージが曲をめぐって口論となり、「君が言うとおりにこれからも弾くよ」とジョージがきつい口調でポールに言い放つ場面がある。この後、ジョージは遂にこらえきれなくなり、スタジオを出ていく。



『ザ・ビートルズ:Get Back』©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.


 『レット・イット・ビー』にもふたりが言い争う場面はあるが、アップルの意向もあって、ジョージがスタジオを出ていく映像は使えなかった。しかし、今回のジャクソン版では、そういう生々しい場面もそのまま登場し、ビートルズ解散前の一触即発の状態を見ることができる。


 また、『レット・イット・ビー』では、ジョンとヨーコの登場場面がかなりカットされているが、今回の映像には、途中でヨーコの離婚が成立して、彼女が笑顔を浮かべながら報告する場面も出てくる。ふたりは片時も離れられない様子で、ジョンの演奏中もヨーコは彼を見守っている。今回の映像では、ジョンはおどけた顔を見せることが多く、彼の茶目っ気やユーモアが伝わる。ポールはみんなをつなぎとめ、曲を作ろうと必死になっている。リンゴはそんな3人をドラムの位置から落ち着いた顔で見ている。


 また、途中でキーボード奏者として加わる黒人ミュージシャン、ビリー・プレストンの存在も、『レット・イット・ビー』より目立っている。ミュージシャンとしての腕も確かだが、ひょうひょうとした雰囲気もあるので、4人の関係をなごませる人物だったのではないだろうか。


 途中でリンゴの映画の共演者、ピーター・セラーズがビートルズを訪問する場面もある。アクの強いコメディ俳優で、いつも変装することが多かったが、ここでは彼の貴重な素顔を見ることもできる(素顔はスマートな英国紳士に思えた)。


 『レット・イット・ビー』は曲の流れに沿って編集されることで、ビートルズのミュージック・ビデオのような構成に思えることもあったが、今回の作品は「ゲット・バック」や「アクロス・ザ・ユニバース」など、数々の名曲が作られる過程を見ることができるので、その誕生の瞬間に立ちあえる喜びがある。


 ジャクソン自身はこう語っている。「彼らの音楽を聴くといつもうれしい気分になる。この映画作りを通じて、4人が伝説の人物ではなくリアルな人間に思えてきた」。


 ピーター・ジャクソンがめざしたのは4人のヒューマン・ドキュメントだったのではないだろうか。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ザ・ビートルズ:Get Back
  4. 『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語