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『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

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なぜ、ピーター・ジャクソン監督が撮ったのか?



 アップルが管理していた映像素材は1969年のビートルズを写し取ったものが約60時間あり、音源は150時間分、残っていた。そこで2018年にビートルズの会社、アップルのジェフ・ジョーンズとジョナサン・クライドがジャクソンに連絡を取り、アーカイブ・フィルムを使ったザ・ビートルズの巡回展について話し合った。


 監督が映画『レット・イット・ビー』(69:マイケル・リンゼイ=ホッグ監督)のことを彼らに尋ねたら、この映画とは別の新しいドキュメンタリー製作をアップルは考えていたという。子供の頃から大のビートルズ・ファンだったジャクソンは自ら監督として志願した。こうして映画版の企画がスタートする。ジャクソン監督は『レット・イット・ビー』で使われた映像は一部の例外を除き、極力使わないように心がけたという。その結果、同じ素材をもとにした『レット・イット・ビー』とは、まったく異なるトーンの作品になった。


 それにしても、なぜ、ピーター・ジャクソン監督のところに話が行ったのだろう? この選択に少し疑問を持つ人もいるだろう。『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01~03)や『ホビット』3部作(12~14)、あるいは『キング・コング』のリメイク作品(05)といったファンタジーやホラー系作品で知られるジャクソンには音楽映画の監督というイメージがまるでなかったからだ。


 たとえば、マーティン・スコセッシのように、自身のドラマでもロック系の音楽をふんだんに使ってきた監督なら、ミュージシャンのドキュメンタリーを手掛けるのも納得できるが、なぜ、ジャクソンに?


 アップルが目をつけたのは、彼の音楽センスではなく、記録映画の監督としてのワザだった。ジャクソン監督は2018年に第一次大戦に参加した兵士たちを収めたドキュメンタリー『彼らは生きていた』を発表していたからだ。


『彼らは生きていた』予告


 この作品の基になったのは約100年前に撮影された2,200時間に及ぶモノクロのサイレント・フィルム。ジャクソンは粒子が荒い昔の記録映像を修復して、映画館でも通用するレベルまで引き上げた。さらに、1914年から1918年に録音された600時間に及ぶ退役軍人や兵士のインタビュー音声も、BBCから入手した。


 まったく関連性のない膨大な映像と音を丹念に見ていき、それをコラージュのようにつなぎあわせ、モノクロの部分を他のイメージと重ねたり、カラーで着色したり、さまざまなテクニックを使うことでかつての戦場をリアルによみがえらせ、そこに(映像とはまったく別のところで録音された)参加者たちのコメントを重ねていった。


 アーカイブ映像の持つ記録性を大事にしながらも、ファンタジー系映画で発揮してきた並外れたイマジネーションを駆使して、100年前の兵士たちが、今も生きているかのような気にさせる圧倒的な記録映画を作り上げたのだ。この映画を作る時、特殊な技術を開発し、100年前の音や映像とは思えないクオリティのものに変えていった。


 アップルとしては、特殊な技術を持つジャクソンに希望を見出したようだ。100年前の兵士たちに新たな命を抜きこんだジャクソンなら50年前のザ・ビートルズに別の命を吹き込めるはずだ……。


 そんなアップル側の期待に応えるため、ジャクソンは今回のビートルズ・プロジェクトのためにも特殊な技術を開発した。もとのフィルムは16ミリで音もモノラルで吹き込まれていた。そこで歌や楽器、話し声なども、全部、バラバラにしてクオリティを向上させた。作品の中には隠し撮りされた音声も出てくるが、それもしっかり聞こえるように調整し直した。もちろん、映像そのものも、最先端の技術でクオリティを引き上げていった。その結果、信じられないほどクリアな映像と音声が実現している。


 『彼らは生きていた』の原題は“They Shall Not Grow Old”(彼らはけっして年を取らない)だったが、今回は”歳をとらない“20代後半のビートルズを目撃できる。




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