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『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

『ザ・ビートルズ:Get Back』ピーター・ジャクソンが甦らせた、4人の仲間たちの物語

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ルーフトップ・コンサートの醍醐味



 レコーディングは中盤から、アップル・コアに場所を移して継続される。4人はこちらのスタジオの方がコンパクトで気にいっているようで、はりつめた雰囲気が緩和されていく。


 映画のハイライトともいうべきアップルのルーフトップでのコンサートの様子はノーカットで42分間、映し出される。撮影時には10台のカメラが使われ、屋上だけではなく、向かい側のビルや受付にもカメラが仕込まれた。


 その結果、屋上ライブの映像と並行して、それを見ている観客たちや周囲の苦情を受けてコンサートの現場に踏み込もうとする警察官たちの様子もとらえられる。『レット・イット・ビー』にも通行人や警官の様子は挿入されたが、今回はスプリット・スクリーン(分割画面)を駆使して、いくつかの場面が同時に映し出されるので、さらに臨場感が増している。


 屋上では「ゲット・バック」「アイヴ・ゴット・ア・フィーリング」「ドント・レット・ミー・ダウン」など、後にアルバム「レット・イット・ビー」に収録される曲が次々に演奏され、4人のライブ・アーティストとしての力を実感できる。1月のロンドンは本当に寒いので、外でのライブはけっして楽ではなかったはずだ(ジョンが「手が思うように動かない」と語る場面もある)。


『ザ・ビートルズ:Get Back』予告


 このアップルのビルはロンドンの中心地、サヴィル・ロウにあった。高級紳士服の聖地として有名で、日本語のセビロ(背広)という言葉の語源にもなっている説もあるそうだ。映画『キングスマン』シリーズの本部もこの地域にある、という設定だった。


 筆者が90年代にロンドンを訪ねた時、このビルの前に行き、カメラを屋上に向けて撮影していたら、通りがかりの(いかにも英国紳士風の男性に)「オー! ビートルズ!」とからかわれたことがあった。ビートルズ・ファンにとっては、巡礼の場所になっているのだろう(その時はもう別の会社が入っていた)。


 このコンサートの場面には、ビートルズだけではなく、一般人も登場するので、69年のロンドンの中心街を映し出したドキュメントとしても貴重。彼らの発言やファッションも興味深い(ビートルズに対しては好意的な意見が多い)。


 今回の映画には、『レット・イット・ビー』の監督だったマイケル・リンゼイ=ホッグや撮影監督のアンソニー・B・リッチモンドの姿もたびたび登場する。


 リンゼイ=ホッグは、その後もサイモン&ガーファンクルのテレビ作品『セントラルパーク・コンサート』(82)やニール・ヤングの『ライブ・イン・ベルリン』(83)等、数々のライブ映画を手掛けているが、00年にはビートルズのポールとジョンを主役にしたテレビ・ドラマ『ザ・ビートルズ 1976 ダコタ・ハウスにて』(原題は“Two of Us”)も作った。ポール(アイダン・クイン)とジョン(ジャレット・ハリス)のダコタ・ハウスでの架空の再会劇と青春の終わりが描かれていたが、かつて現実のふたりを目撃した監督らしい説得力が感じられる佳作だった(ポールはこの映画で自分を演じたクインの演技が気にいったそうだ)。


 一方、撮影監督のアンソニー・B・リッチモンドは、その後、『赤い影』(73)や『地球に落ちてきた男』(76)、『ジェラシー』(80)など、英国の才人監督、ニコラス・ローグの作品で評価された。『レット・イット・ビー』の時は新人だった監督や撮影監督は、この作品の後も着実な活動を続けた。


 『ザ・ビートルズ:Get Back』には、製作者としてポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ヨーコ・オノ、オリヴィア・ハリソン(ジョージの未亡人)、ガイルズ・マーティン(ジョージ・マーティンの息子)等の名前もクレジットされている。



『ザ・ビートルズ:Get Back』(c)1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.


 “Ultimate Classic Rock”(20年5/11)のサイトには、ポールとリンゴのコメントも掲載されている。「今回の映画でピーター(・ジャクソン)がアーカイブ映像を使って、レコーディングした時のビートルズの真実を伝えてくれることをうれしく思っている。私たちには友情や愛があり、ちょっとクレイジーながらも、いい時間が過ごせたことを思い出させてくれる」とポール。「ピーターは本当に素晴らしい人物で、今回の映像を見ることができて、喜んでいる。みんなで笑いながら、音楽を演奏していた。以前のバージョン(『レット・イット・ビー』)で描かれたものとは、本当は違っていた。今回のバージョンには愛や優しさが感じ取れるはずだ」とリンゴ。


 今回の作品が作られることで、どこか暗い印象も残した『レット・イット・ビー』とは異なるビートルズのはつらつとした姿をファンたちは目撃することになった。


 ピーター・ジャクソンといえば、なんといっても代表作は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズだが、奇遇なことに60年代後半にビートルズはこのトールキンの小説の映画化を試みたこともあったという。ただ、原作者はビートルズが嫌いで、映画化権が入手できなかった(その場合、スタンリー・キューブリックに監督を依頼予定だった)。


 それから、長い歳月が流れ、トールキンの長編小説を3部作として映画化したパワフルな監督が、今度はビートルズの物語を3部作として映像化した。『ロード・オブ・ザ・リンク』も、仲間との友情や絆が重要なテーマだったが、『ザ・ビートルズ:Get Back』でも、4人の仲間たちの(最後の)物語を見ることができる。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。




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『ザ・ビートルズ:Get Back』

ディズニープラスにて全3話連続独占見放題で配信中

『ザ・ビートルズ Get Back』公式サイト

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