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『MEMORIA メモリア』記憶の彼方からやってくる「波動」に耳を傾ける

©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.

『MEMORIA メモリア』記憶の彼方からやってくる「波動」に耳を傾ける

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ティルダ・スウィントンとの「共作」



 「ティルダ・スウィントンは、自分のことを、この映画の中で責任を分かち合う労働者の一人だと考えています。彼女は物語だけでなく、フレームに収まっているものに貢献する、すべてのものを同調させるために存在しています。ある意味、彼女は私や他の人たちと同じように映画作家なのです」(アピチャッポン・ウィーラセタクン)*1


 「俳優」と呼ばれることよりも「パフォーマー」と呼ばれることを好むティルダ・スウィントンは、アピチャッポンの作品に限らず、ウェス・アンダーソン、ジム・ジャームッシュ、ルカ・グァダニーノ等とのコラボレーションにおいて、プリ・プロダクションの段階から作品に関わることで知られている。アピチャッポンとの出会いは、カンヌ国際映画祭で見た『トロピカル・マラディ』(04)にまで辿る。この作品が描く「境界線の不在」に強く惹かれたティルダ・スウィントンは、息子ザビエル・スウィントン・バーンに寄せた文章の中に、その感激を記している。この文章を読んだアピチャッポンとの交流が、ここから始まる。



『MEMORIA メモリア』©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.


 その後、二人はタイで開かれた映画祭のキュレーターを共同で務めるなどして、十年以上に渡り、長編映画でのコラボレーションの機会を探ってきたという。ティルダ・スウィントンには、俳優として「起用される」という概念がない。映画作家との何気ない対話の積み重ねがコラボレーションに繋がっている。それは、キャリアの最初期にデレク・ジャーマンとの映画制作で培った経験を正統に引き継いでいく強い意志でもある。デレク・ジャーマンの映画で彼女を知ったアピチャッポンも、彼女のそういった姿勢をよく理解している。撮影現場以外でも家族のように時間を費やすことを惜しまなかったティルダ・スウィントンの姿勢に、アピチャッポンは感銘を受けたという。ティルダ・スウィントンにとって、映画は「家」であり、制作のプロセスそのものが重要なのだ。


 「ティルダはモニターに映るテイクを一つ一つ見ていきます。多くの俳優が、そのイリュージョンを壊したくないという理由でモニターを見たがりません。しかし、フレームを研究する必要が彼女にはあるのです。「ああ、これはおかしい」と彼女は言います。「ジェシカってこんな感じなのかな?」とか。そして数日のうちに、彼女は歩き方、動き方を本当に変えていきました」(アピチャッポン・ウィーラセタクン)*2


 理想の映画パフォーマンスとして『バルタザールどこへ行く』(66)のロバを挙げるティルダ・スウィントンにとって、アピチャッポンの映画に出演することは、予め運命付けられていたように思える。『トロピカル・マラディ』における虎や、『ブンミおじさんの森』(10)の冒頭を飾る牛に限らず、アピチャッポンの映画では、人間と動物は互いに「波動」を響き合わせていく存在であり、その撮られ方は主従関係と最も遠いところにある。


 そして「眠り」というキーワードが二人のアーティストを結びつける。『MEMORIA メモリア』で描かれる「仮死の身体」。2013年にMOMAで展示されたパフォーマンス・アートで、ティルダ・スウィントンはガラス箱の中に敷かれたマットレスで、ひたすら眠るというパフォーマンスを披露している。アピチャッポンのフィルモグラフィーを貫く「眠り」の主題に共振する準備は整っていた。




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