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『MEMORIA メモリア』記憶の彼方からやってくる「波動」に耳を傾ける

©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.

『MEMORIA メモリア』記憶の彼方からやってくる「波動」に耳を傾ける

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短編の実験と長編の実験



 アピチャッポンは、長編映画の他に多数の短編映画やインスタレーションを制作している。長編の大きな時間枠の中で行う実験と、短編における自由な実験。その中には、傑作短編『ブンミおじさんへの手紙』(09)や、前述の短編『第三世界』のように、直接的に長編作品に繋がっていった作品も残されている。『MEMORIA メモリア』にとっては、『BLUE』(18)がそれに当たる。


 ベッドに寝そべる老女に焚火のイメージなどが多重にディゾルブされ、いつの間にか目の前の画面が何処なのか分からなくなっていく。この美しい短編は周到な形で「焦点」だけを徐々にズラしていく。即身仏になっていくような、燃え上がる老女の仮死は、幻視としての仮死だが、幻視をしているのは老女でもカメラの背後にいる映画作家でもなく観客の方だ。アピチャッポンは映画の装置によって、画面を見ることのズレを意識させる。



『MEMORIA メモリア』©Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.


 『MEMORIA メモリア』でジェシカは、頭の中に鳴り響く爆発音を再現してもらおうと音響スタジオを訪れる。ジェシカの抽象的な言葉を頼りに、彼女にだけ聴こえる爆発音を再現しようとする、スタジオのスタッフ・エルナン。ここでジェシカの記憶を呼び覚ますために、映画の効果音が用いられたのは、アピチャッポンの映画制作への姿勢をよく表している。アピチャッポンは映画の装置によって記憶を召喚させていく。


 『BLUE』における仮死のイメージは、『トロピカル・マラディ』の第二部導入時にクレジットされる「魂の道」という言葉を、ふと思い出させる。アピチャッポンの映画に触れるとき、観客は「魂の道」の入口に招待される。眠りの入り口。あるいは覚醒の入り口。そこでは何が見えるのか? 再び『第三世界』の台詞が脳裏を過ぎる。「遠くで人が歩いているのが見えた。彼は私に何度も聞いてきた。何が見えますか?」。そして『MEMORIA メモリア』には、眠りという名の仮死のシーンが用意されている。




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