噴火の描写
こういった苦労を重ねた調査でも、噴火が差し迫っていると断定できる程の明確な証拠は掴めず、ポールは撤収を決定する。ハリーは、互いに惹かれ合ったレイチェルの家を訪ねる。すると彼女のキッチンの蛇口から、茶褐色に澱んだ水が出てきた。給水所を調べると、そこは硫黄の臭いに満たされていた。ハリーは慌ててポールを叩き起こし、ダンテズ・ピークの異常な兆候を掴んだ調査チームは、州兵の出動を要請する。レイチェルは、高校の体育館で説明会を開くと告知し、町民を招集する。ハリーが説明をしようとした矢先、大きな地震が町を襲い、町民たちはパニックとなり逃げ惑う。外に出てダンテズ・ピークを見上げると、頂上から灰色の噴煙が高く昇っていた…。
多くの人々が噴火の様子を目にするのは、クラフト夫妻らの活動が知られるようになった70年代以降のことだ。現在ならば、多くの人々がスマホやビデオカメラを所有しているし、活動中の火山を定点カメラで監視している場合もある。だから、噴火の瞬間や直後の映像を見る機会も圧倒的に増えた。しかし昔の映画では、特殊効果マンがイメージで想像するしかなく、キノコ雲状の炎が上昇するように噴煙を描いたり、手筒花火のような火の粉が吹き出す（例えば『空の大怪獣 ラドン』（56）など）といった表現がなされていた。
『四時の悪魔』予告
実際、南太平洋の火山島を舞台とした『四時の悪魔』（61）では、ガソリンタンクが爆発したような、オレンジ色の炎が火口から舞い上がる。当時書かれたメイキングによると「火山を造るのは造作がない。まず50フィート（15.24m）の丘を探し、15フィート（4.57m）の円錐形の山頂部を取りつけ、これにたくさんの黒色火薬を詰め、ボタンを押して、ドカンとやるだけの話だ。丘にはカリフォルニア州のフォールブルックに近いラリー・バトラー牧場が選ばれ、円錐は直径18フィート（5.49m）の鋼管を軸にして頂上に造られた。それから丘の外面を高圧の消防ホースで削って、天然火山の円錐の感じにした。この円錐の中にガソリンの焼夷弾と、カーボン・ブラックとコルクの塊を詰めた臼を取りつけた。これを打ち上げた時には、焼夷弾の焔を通してさえ、溶岩と岩屑の大きな塊を噴出する火山そっくりに見えた」（*7）と説明されている。
また1883年に発生した、インドネシアのクラカタウ島の大噴火を描く『ジャワの東』（68）（でも、同様にガソリンと火薬の組み合わせが使用されている。つまり60年代の人々の知識では、火山の噴煙はナパーム弾の爆発のようなイメージだったのだ。
だが実際の噴煙は、水蒸気、亜硫酸ガス、硫化水素、塩化水素、水素、一酸化炭素などが複合した火山ガスに、火山灰が混ざったものとして放出される。だからガソリンのように、自ら燃え上がることはない。だから色は基本的に灰色だ。『ダンテズ・ピーク』では、それをかなり忠実に再現している。
*7 プロの特殊効果マンのために編集された教科書である、FRANK P. CLARK著 / SMPTE映画用特殊効果諮問委員会監修: “SPECIAL EFFECTS in Motion Pictures” Society of Motion Picture and Television Engineers, Inc. (1966) (邦訳: 「映画の特殊効果」日本映画テレビ技術協会 (1968))より。原文は(Mark Davis 著: “The Devil at 4 O'clock”International Photographer, Vol. 33 (November 1961))からの引用。
後編に続く
【参考文献】
Cinefex, No.69, March 1997
Cinefex, No.71, September 1997
1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2～太陽の響～』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。
(c)Photofest / Getty Images
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