1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ダンテズ・ピーク
  4. 『ダンテズ・ピーク』リアリティを追求したディザスター映画の秀作(前編)
『ダンテズ・ピーク』リアリティを追求したディザスター映画の秀作(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『ダンテズ・ピーク』リアリティを追求したディザスター映画の秀作(前編)

PAGES


『ダンテズ・ピーク』あらすじ

地震が起こる可能性が極めて高いとされる休火山“ダンテズ・ピーク”を調査しにやって来た火山学者のハリー・ダルトン(ピアース・ブロスナン)は、調査の末、噴火の兆候を発見する。ハリーは、このままでは町全体が溶岩に飲み込まれる可能性があると訴えるが、仲間の研究者たちに信じてもらえず、市長のレイチェル(リンダ・ハミルトン)に直談判する。ハリーが説明をしようとした矢先、大きな地震が町を襲い、町民たちはパニックとなり逃げ惑う。外に出てダンテズ・ピークを見上げると、頂上から灰色の噴煙が高く昇っていた…。


Index


適度なリアリティを持つディザスター映画



 トンガの海底火山フンガトンガ・フンガハアパイの噴火は記憶に新しいが、さらにパプアニューギニアのマナム火山でも新たに噴火が発生した。火山はあらゆる自然災害の中でも、噴火に伴う火山ガス、火山弾、火砕流、溶岩流、降灰、火山雷、火山霧、衝撃波、火山性地震、山体崩壊、海底火山なら津波や軽石被害、さらに二次災害としてラハール(泥流や土石流)、日照不足、大気汚染、酸性雨など、最も多様な事象を引き起こす。その分、被害に遭われる方も多くいる訳だが、ディザスター映画としては最適の題材となる。そのため映画の黎明期(*1)から、何度も描かれてきた。


 そこで今回は、火山を題材とした映画を取り上げたいと考え、数多くある中で『ダンテズ・ピーク』(97)を選んでみた。その理由は、観ている途中で冷めてしまうようなSF的誇張が少ないことだ。この映画が企画されたころ、『ツイスター』(96)、『デイライト』(96)、『タイタニック』(97)など、第三次のディザスター映画ブーム(*2)が始まっていた。その中で、同じく火山をテーマとした『 ボルケーノ』(97)(*3)が、『ダンテズ・ピーク』の2カ月後(*4)に公開されている。こちらは、ロサンゼルスの街中に突然火山が出現するという、かなり荒唐無稽な設定がされていた。


『ダンテズ・ピーク』予告


 これと比べれば、『ダンテズ・ピーク』における科学的不自然さは少ない。もちろん火山の専門家が見れば、おかしな点は数多く見つかるのだろうが、他のディザスター映画と比較してみれば、適度なリアリティを持っている作品として評価できる。これには、米国地質調査所のデイヴィッド・H・ハーロウ(*5)や、ノーマン・マクラウド、ジョン・P・ロックウッドらが、プリプロダクションの初期段階からアドバイザーとして参加していることも大きい(劇中でハリーらが所属している米国地質調査所カスケード火山観測所(*6)は、当時マクラウドの勤務先でもあった)。


 製作総指揮は、『ウォーターワールド』(95)も手掛けたイロナ・ハーツバーグで、彼女は監督として『スピーシーズ/種の起源』(95)のロジャー・ドナルドソンを選んだ。ドナルドソンは、まったく偶然にも大学時代に地質学を専攻しており、火山に対して基礎的な知識があった。彼は、学者たちから得た情報を組み合わせ、実際に起きた様々な火山災害をコラージュするように、『デイライト』の脚本家レスリー・ボーエムとストーリーを作って行った。


*1 例えば1900年には、英国における映画の先駆者であったウォルター・R・ブースが、『The Last Days of Pompeii』(ポンペイ最後の日)という短編を作っている。これは、西暦79年にイタリアのヴェスヴィオ山で起きた大噴火をベースにしており、その後も数多くの作品のモチーフとなった。


*2 他に第三次ディザスター映画ブームには、『ディープ・インパクト』(98)、『アルマゲドン』(98)、『ファイアーストーム』(98)、『フラッド』(98)といった作品が作られている。ちなみに第一次ディザスター映画ブームでは、『世界大洪水』(33)、『桑港』(36)、『ハリケーン』(37)、『シカゴ』(37)、『スエズ』(38)、『雨ぞ降る』(39)などがあり、『ポセイドン・アドベンチャー』(72)に端を発した第二次ディザスター映画ブームには、『日本沈没』(73)、『タワーリング・インフェルノ』(74)、『ノストラダムスの大予言』(74)、『大地震』(74)、『ヒンデンブルグ』(75)などがあった。


*3 『ボルケーノ』に関して、消防車やヘリコプターで散水を行い、溶岩の流れを食い止める場面への批判がある。つまり「高温の溶岩に水を掛ければ、水蒸気爆発が生じて非常に危険でありえない」というものだ。しかしこの作戦には、実際に成功させたモデルがあった。それは、アイスランド・ヘイマエイ島のエルトフェットル山が1973年に噴火した際に、港を守るために実行されたものである。当時、この作戦の記録映像をテレビで見ていた筆者は、非常に感動したことを覚えている。


*4 当初のスケジュールでは『ダンテズ・ピーク』の方が、『ボルケーノ』の1カ月後の公開予定だったが、ユニバーサルが急がせて前倒しさせた。


*5 1991年にフィリピンのピナツボ山が大噴火した際、前兆観測から避難勧告を発した調査チームの1人。この時の出来事も、『ダンテズ・ピーク』のストーリーのベースの1つになっている。

https://pubs.usgs.gov/pinatubo/punong2/index.html


*6 劇中に登場するカスケード火山観測所の建物は、カリフォルニア州マリブの郵便局でロケされた。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ダンテズ・ピーク
  4. 『ダンテズ・ピーク』リアリティを追求したディザスター映画の秀作(前編)