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『ニューヨーク・ニューヨーク』スコセッシのキャリアを潰しかけた壮大な問題作

(c)Photofest / Getty Images

『ニューヨーク・ニューヨーク』スコセッシのキャリアを潰しかけた壮大な問題作

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黄金期のハリウッドの映画作りを再現



 スコセッシの出世作『ミーン・ストリート』(73)を高く評価していたウィンクラーにとっても渡りに船の話だった。実は『ニューヨーク・ニューヨーク』の脚本は、ジャズ好きだったウィンクラーが無名の若手作家アール・マック・ローチに依頼して書かせたもので、低予算作品を手がけてきたウィンクラーと共同プロデューサーのロバート・チャートフにとっても大きな挑戦だった。そこに新進気鋭の若き天才監督が、ぜひやりたいと手を挙げてくれたのだ。


 『ニューヨーク・ニューヨーク』は、登場人物がセリフの代わりに歌い出すようなミュージカルではないが、歌や演奏がふんだんに盛り込まれた音楽映画だ。主人公はサックス奏者のジミー(ロバート・デ・ニーロ)と、ジャズシンガーのフランシーヌ(ライザ・ミネリ)。太平洋戦争終結の喜びに沸く1945年8月15日のニューヨークで出逢った2人は、惹かれ合って結婚するが、音楽的志向の違いやキャリア上の衝突が結婚生活に影を落としていく。アーティスト同士のパートナーシップの難しさを描くメロドラマであることも、スコセッシにはわがことのように感じられた。


 最初にキャスティングされたのはライザ・ミネリだった。スコセッシが手本にしようとしていたMGMミュージカルを数多く手がけた巨匠監督ヴィンセント・ミネリと、MGMミュージカルの大スターだったジュディ・ガーランドの娘である。ライザは「映画の撮影現場で育った」と語っており、まさに自分のルーツに立ち返るような企画だった。


『ニューヨーク・ニューヨーク』(c)Photofest / Getty Images


 ライザが主演に決まったことで、「キャバレー」や「シカゴ」などの名作ミュージカルで知られる作詞作曲コンビ、カンダー&エッブがオリジナル曲を書き下ろすことになった。美術監督には、『ウエストサイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』を手がけたボリス・レビンを起用。撮影監督のラズロ・コヴァックスは、レビンが参加すると聞いて「神様と一緒に仕事をするのか」とドキドキしたという。


 ジミー役にスコセッシが望んだのは、当然ながらロバート・デ・ニーロだった。『ミーン・ストリート』『タクシー・ドライバー』で組んだことで、2人は阿吽の呼吸で通じ合う盟友同士となっていた。ライザ・ミネリが古き良きハリウッドの末裔だとすれば、自分たちが切り開く新時代を代表する俳優がデ・ニーロだった。そして即興を好むスコセッシとデ・ニーロのスタイルは、演技者としてのライザ・ミネリを大きく刺激することになる。


 スコセッシは『ミーン・ストリート』や『タクシー・ドライバー』で生まれ育ったニューヨークをリアルな姿を描いてきたが、『ニューヨーク・ニューヨーク』では遠く離れたハリウッドで撮影することにこだわった。黄金時代のハリウッド映画は基本的に撮影所内のセットで撮影されており、インテリアも街並みもすべてが作り物だった。スコセッシは『ニューヨーク・ニューヨーク』を、時代設定に合わせて1945年から1957年のミュージカル映画のスタイルで作るつもりだった。


 映画は、タイムズスクエアで戦勝祝いに明け暮れる群衆のシーンから始まる。スコセッシはヴィンセント・ミネリ監督と同じMGMスタジオで撮影することを望み、かつて数々のミュージカル映画が生まれた場所に巨大なタイムズスクエアのセットが建てられた。ライザ・ミネリには母ジュディ・ガーランドが使ったのと同じ控室が与えられた。続くダンスホールのシーンと合わせて数百人のエキストラが投入され、浮かれて騒いで踊りまくる群衆を演じた。


 スコセッシにすれば、まさに夢の実現だったろう。このシーンに先んじて、壮大なミュージカルナンバー「ハッピー・エンディングス」が10日間かけて撮影されていた。劇中でスターになったフランシーヌが主演する舞台と映画を12分間に凝縮させた、贅沢で幻想的なシークエンスだ。スコセッシは素晴らしい出来栄えに満足し、作品に興味を持った業界人には必ずこのシーンを見せた。


 関係者の誰もが確かな手応えを感じていたが、次第に撮影現場はカオスを化していく。冒頭のタイムズスクエアとダンスホールのシーンだけで膨大なフィルムが回され、編集するとなんと1時間の長さになった(最終的には約20分に縮められた)。ジミーがダンスホールでフランシーヌに目を留めてなんとか誘い出そうとナンパを繰り広げる、まだ序盤も序盤のシーンなのに、である。





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