2022.04.05
スコセッシをどん底に追い込んだキャリア最大の失敗作?
スコセッシは、混乱の果てに「なんとか映画らしきものが残った」と語っている。一方で編集担当としてさんざん苦労したトム・ロルフは「最初のバージョンは4時間半あったが、試写会の後、スコセッシに「君は天才だ」と声をかけた」と証言している。その後2時間43分にまで縮められたが、それでも長すぎるとスタジオから説得されて、なんと「ハッピー・エンディングス」のシーンをまるまるカットしてしまう。往年の絢爛豪華なミュージカルを復活させたいというスコセッシの夢と願いが詰まった会心のシーンだったのに、だ。
最終的には2時間35分(ヨーロッパでは2時間16分)のバージョンが公開されたが、批評的にも興行的にも振るわなかった。前月に『スター・ウォーズ』が公開されて空前の大ヒットとなっていたことも向かい風になった。著名な映画評論家のポーリン・ケイルは「完全な失敗作」と一刀両断し、観客もスクリーンで繰り広げられるオールドスタイルの華麗な映像と、人生の苦味に満ちたストーリーとの落差に大いに戸惑った。往年の形式を借りて現代的なドラマを描くというスコセッシの狙いは、悲しいほど理解されなかった。
『ニューヨーク・ニューヨーク』(c)Photofest / Getty Images
奇妙なことに、1981年に「ハッピー・エンディングス」のシーンを復活させた2時間43分の完全版が公開されると、意外なほどに好評で迎えられた。スコセッシは苦笑いしながら「最初に貶したのと同じ評論家が褒めた」と回想している。『ニューヨーク・ニューヨーク』という怪物はあまりにも特異過ぎて、理解されるには早すぎたのかも知れない。
『ニューヨーク・ニューヨーク』の失敗に打ちのめされたスコセッシは、ドラッグに溺れ、持病の喘息を悪化させ、さらには結婚生活も破綻して、『レイジング・ブル』(80)で復活するまでの鬱々とした暗黒期に突入する。図らずも『ニューヨーク・ニューヨーク』で探求した「アーティストの困難な私生活」を地で行く形になってしまった。今ではスコセッシも関係者も口を揃えて「作品には誇りを持っている」と振り返っているのが救いではある。